最近あちこちで素晴らしい若者に出会います。知事をやっている時も職掌柄立派な若者にお会いすることがあって、そういう人と話をしているとこちらも楽しくなるのですが、知事を引退してからもそういう経験を時々いたします。それは、そんなに頻繁にではありませんが、大学などで講義、講演をして下さいと言うお願いがあるからで、その時お目にかかれる若者の中にそういう素晴らしい人がいることを発見できるからです。
先日、東京大学の公共政策大学院で地方行政の講義をさせてもらいました。経産省出身の宗像直子教授の半期の授業の中の1日分を割り当てて頂いて、しゃべらせてもらったものです。去年から引き続いて2回目ですが、ここでは授業に出ている学生さんの感度の良さに毎回感動しています。私は自分でも話が長いと自覚しているのですが、2時間ものの講義内容を準備していたら、宗像教授に、学生との対話や学生のグループ討議の時間を空けるため、40分でしゃべれと言われてしまいました。そこで、猛烈に急いで、何とかしゃべり終えたのですが、そんなことをすると聞く方は消化不良を起こすかなと思っていましたら、その後、コンピュータの画面に続々と現れる学生さんの質問は皆極めて当を得たものばかりでした。早口で大急ぎでしゃべった私の拙い話の内容を完璧に理解していないと出来ないような質問ばかりで、これはすごいと思いながら、質問の来た順に、今度は私がまた猛烈に早く答えていくわけです。去年の演題は「経営体としての地方行政」、今年は内容はほとんど一緒ですが、ちょっとひねって「地方行政の真実」というタイトルにしました。アル・ゴアの昔一世を風靡した本のタイトルを真似て格好を付けたものです。授業では初めに私が地方行財政の制度とデータで日本の地方行政の実態を色々概観し、そこから、このような状況からは、どのような不都合な真実が地方行政に起こると思うかという質問をしてみました。私は、社会制度を考える時に一番大事なことは、その制度を利用したり、関与したりする人々がどのようなインセンティブを感じるかだと思っています。このインセンティブが人々の行動を通じて制度を好ましいものとも好ましくないものともしてしまうと思っているのです。したがって、授業では学生さん達に地方行政の様々な材料を提供し、それが人々のインセンティブにしたがった行動によって、どのような不都合な真実を地方行政に与えうるかを優秀な学生さんに考えてもらったのです。その部分はどうも不消化だったような気がします。私の話題の持って行き方が熟れていなかったこととあまりの急展開のために、さすがの学生さんも付いて来れなかったかなという反省をしています。同時に東京一極集中の話もしました。私は東京一極集中の要因には経済的、あるいは経済学的に考えてやむを得ない所も多いと思っているのですが、中には、日本の社会の中で制度的に東京や大都市が得をし、地方が損をしているところがあって、論理的に考えれば、こういう所は是非国として是正すべきだと思っているのですが、そういう制度的側面を学生さんに披露してみました。そして、かくてますます進んでいる東京一極集中、大都市集中の結果、生じやすい不都合な真実を学生さんに考えてもらいました。
その後、例によって立派な質問に精一杯答えてから、こういう不都合な真実はあったとしても、それがすべてだから、良い行政は地方では出来ないのだというのは、100%間違いで、やれることはいっぱいあるのだと言いつつ、コロナと災害対策で、和歌山県が実際に行った行政の真実を学生さんに披露しました。その後、また、宗像教授に無理を言って、授業が終わってから学生さんの希望者とコーヒーでも飲みながら自由にディスカッションをする機会を作ってもらいました。これは私の学生時代のなかなか印象的であった経験から来ています。私が学生であった当時の東大経済学部では、特別講義として、(それ自体一日限りではなく複数回でしたが、)社会の第一線の人を講師として授業を行ってくれました。私の記憶によれば、中小企業論の清成忠男さん、金融政策の鈴木淑夫さん、流通経済論の佐藤肇さんでした。私はえらく気に入って真面目に聴講していたのですが、その中の佐藤さんが希望者を集めて喫茶店に学生を招待してくれたのです。その中で佐藤さんがおっしゃっていたことはとても印象的で、私もあんな風に学生さんと接することが出来たらと思っていたからです。ちなみに、清成先生とはその後も多くの機会に知遇を得て本当に御世話になりました。参加してくれた学生さんはそう多くはなかったのですが、その後もメールを頂いたり、もう一度お会いしたいと言われたりして、あらためてすごい人達がいるなあと思っています。その中の一人はコーヒー対談に出られなかったがぜひお会いしたいという方も連れてきてくれましたが、その人はなんとその日に経済産業省の内々定をもらいましたという人で、素晴らしい人で、私は次の宗像さんになるのだと立派に言っていました。こういう若い人々は本当に立派なのですが、私は、例によって忖度をしたり、おだてたりしないで、遠慮会釈のない議論をします。それをこんちきしょうと思いつつそれを栄養にして、このような立派な若い人達が大化けしてくれることを切に願っています。
別の場で機会を頂いて同じような地方行政の話をした時は、年齢は30くらいですが、素晴らしい若者にお会いしました。この人は、私が立派な講師をお呼びして、和歌山で講演会スタイルの勉強会を行っていることをとても評価してくれて、わざわざ勉強会の度に和歌山まで聞きに来てくれるようになり、次の日に私の事務所兼居宅で行っているごくインフォーマルな雑談会にも来てくれました。そこには和歌山市で社会奉仕活動のリーダーをしている若者もいつも来てくれます。こういう方々とお話しが出来るのはとても幸せなことです。
昨年から、年1回の特殊講義ですが、新潟に新しく出来た開志専門職大学にお呼び頂いて講義をしています。この講義に出てこられる学生さんも皆素晴らしく、熱心に私の話すことを聞いてくれました。かつて、学生は単位を稼ぐために教室に来ていて講義は聴く気が全くないという大学や、ちょっと中身が学生さんには難しいかも知れないので、先生に出て頂いて一緒に経済学のツールで社会現象を切ってみようとしたら、先生が学生さん以上にやる気がないことが判明した大学など、色々失望させられることを経験したことがある私でしたが、この開志専門職大学の生徒や先生方は全く違いました。本当に学生さん達は良く聞いて下さり、先生方もとても熱心でした。学生さんの何人かと昼食をともにさせて頂いたのですが、分かったことは、一日の半分ぐらいは自分の選択する企業でインターンをしながら残りの半分の時間は大学で学ぶというシステムになっているとのことで、皆生き生きとご自身の人生を語っていました。おそらく、インターンとして企業の現場で働くことによって、学ぼうという目的意識が高まり、それが授業態度の真摯さに結びついているのではないかと思いました。今年も秋にまた、授業をやらせて頂くことになっているのですが、とても楽しみです。
今年からは桃山学院大学の客員教授にさせて頂きました。未だどんな役割が与えられるかは分かっていませんが、また、素晴らしい若者にお会いできるかと期待しています。でも、この大学の立地環境は最高です。こういう所で学んでいる学生さんはきっと立派な若者に成長していくことでしょう。
頑張れ、日本の若者。