日刊建設工業新聞と漫画「ある光」
阪本繁紀さんと言う方がいます。まだずいぶん若い方ですが、和歌山県出身で、現在は日刊建設工業新聞の記者をしています。大学を出てから、しばらく和歌山県の職員をしていて、水害や地震津波対策など、防災、県土整備の仕事に従事した後、県庁を辞して、新聞社に入ったという経歴の持ち主です。多彩な人で、新聞社公認のもと、「ある光制作委員会」と言うホームページを運用していて、東日本大震災の時に道路の啓開で脚光を浴びた当時の東北地方整備局長の徳山日出男さんをはじめ、東日本大震災の際活躍した人々を中心に、防災の世界の識者に当時の記憶や今後の防災対策の在り方などをインタビューしてアップしています。また、特筆すべきは、和歌山下津漫画政策同好会という会を作って、「ある光」と言う大部の漫画を出版しています。阪本さんと私との交友はこの漫画を送ってきてくれてからで、東日本大震災の時代の音楽好きの女子高校生の大震災による悲しい思い出と成長の記録を描いていて、なかなか感動的なものに仕上がっていると私は思いました。聞けば、彼の今日あるは、人のために尽くす仕事がしたいと和歌山県庁に入り、そこで地震津波対策に出会ったからだということだそうですが、何故そのような人のために尽くす仕事がしたくなったかと言えば、私が和歌山県知事在任中に始めた「きらめき夢トーク」という事業で、当時高校生であった彼が、講師を務めた本田悦朗さんの話を聞いて感動し、彼が言った「自分を超えたもののために尽くすことは楽しい」という言葉を聞いたからだそうです。この事業は、日頃はマスメディアやネットを通じてでないと接することが出来ない各界の名士を呼んできて、和歌山の高校生にそういう人から直接話を聞き、対話する機会を与えてあげようと考えて始めたものですが、本田さんの話は、国際派の大蔵省の役人であった本田さんが何回目かの海外赴任を前にしたときに無理を言って話をしに来てもらったもので、海外にあって、日本の国益を背負って奮闘した姿が聴衆によく伝わって、終わった後も大勢の高校生諸君が本田さんの周りを取り囲んで離してくれなかったというような素晴らしいものでした。実は私も聞いていて涙が出てきました。そしてその本田さんに触発されて志を抱いた阪本さんが、防災対策における様々な活動を通じて、人のために尽くす仕事を志して活躍中というわけなのです。残念ながら、この和歌山県の事業は、私が知事を辞めてから廃止されてしまったので、高校生の諸君が第一線の識者と直接語る機会がなくなってしまったのですが、阪本さんから、自分の今日あるは、あのきらめき夢トークですということを聞いて、発案者、企画者として私は大いにうれしくなりました。
その阪本さんから、インタビューのお願いがありました。日刊建設工業新聞の特集と、彼のホームページ「ある光制作委員会」の「TUNAGO」の両方に掲載するために、防災対策の経験や抱負を語ってくれと言うものです。もちろん喜んで応じまして、その成果が、ホームページには5月23日から、新聞紙面には6月10日に掲載されています。長々しゃべったのですが、坂本さんの絶妙な編集技術によってコンパクトで、よくまとまったものに仕上がっていますので、より短い記事のほうを、阪本さん及び日刊建設工業新聞の許可を得て、以下に引用します。ホームページもよかったら見てあげてください。徳山日出男さんも別の日に出ています。
防災減災/元和歌山県知事・仁坂吉伸氏に聞く、南海トラフ巨大地震にどう立ち向かうか
2025-06-10 12面
◇自治体は三つのレイヤーで対策を
政府の中央防災会議が設けたワーキンググループ(WG)は3月、南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を公表した。想定によると首都圏から九州までの広域が強い揺れに見舞われ、津波は福島県から沖縄県まで広範囲を襲う。関係する地方自治体では人命被害を最小限に抑え、速やかな復旧・復興を実現するため一層の努力が求められる。力点を置くべきポイントを、16年間にわたり和歌山県知事として県の防災対策を指揮した仁坂吉伸氏に聞いた。
--現下の南海トラフ巨大地震対策をどう見る。
「一般的に津波被害が注目を集めやすい傾向にある。ただ私は、地震で亡くなる人もかなり多いと考える」
--地震対策のポイントは。
「建物の倒壊防止が、地震対策の肝になる。住宅の耐震化が喫緊の課題だ。ただ和歌山県の住宅耐震化率は、全国平均と比べて低い水準で推移している。2023年時点で全国平均が90%なのに対し、和歌山県内は84%にとどまった」
「私たちは『これでは駄目だ』と思い、持ち主の実質負担を極限まで抑えられるよう補助制度を手厚くした。負担は実質ゼロに近いが、それでも伸び悩んでいる。これはいまだに大きな課題で対策も途上にある」
--津波被害も甚大と見込まれる。
「津波対策では『命だけは助かること』が肝要だ。生きていれば助けてもらえる。11年の東日本大震災の例を引けば、国は国家財政を傾けてでも支援してくれるだろう。命を守るには、避難困難地域の解消に力を注ぐべきだ。南海トラフ巨大地震が発生した場合、太平洋沿岸には短時間で津波が到達する。避難が間に合わないエリアが生じる。こういう時は難しいことを考えず、裏山に駆け上がるのが一番だ。和歌山県では避難路をきめ細かく整備してきた」
「山が遠い場合もある。対策として津波避難機能を持った県営住宅の整備や、津波避難ビルの指定などを進めた。こうした地道な対策で一軒一軒『この家の人は助かるか』をシミュレーションし、避難困難地域をつぶしていった。堤防や護岸の強化にも力を入れた。結局は津波に乗り越えられるかもしれないが、強化しておけば時間稼ぎになる」
--復旧段階を見据え、平時に求められる備えは。
「災害に強い道路ネットワークの形成が欠かせない。東日本大震災の際、国土交通省は『くしの歯作戦』を展開した。東北自動車道沿道から海岸までを結ぶ16本のルートを選び、重点的に啓開した。同様の対応を可能にするには、内陸部の道路をあらかじめ強固にしておく必要がある。県知事の在任中は県道や県管理国道でバイパスを整備するなど、道路ネットワークの強化に計画的に取り組んだ」
「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策(18~20年度)や同5か年加速化対策(21~25年度)は強烈な効果があった。強靱化関連予算は別枠で確保してもらえるため、事業量の純増が可能だ。『国費がもらえるうちに早く終わらせてしまおう』と考え、集中的に整備した」
--東北地方などでは復興後、人口減少が深刻化している。
「『復旧・復興をどれだけ早く成し遂げられるか』が、人口減少に陥るか否かの鍵を握る。例えば11年の紀伊半島大水害では、鉄道橋梁が流失し、紀勢本線が部分的に運休した。しかし私は『すぐに復旧するから大丈夫です』と宣言し、沿線住民の流出を防いだ。並行して施工者に、復旧工事を急いでもらった」
「まずはリーダーが腹をくくり、住民を安心させなければならない。施工者には『仮に工期を過ぎてもペナルティーなど課さない』『絶対に守ってやる』と約束した上で、可能な限り工事を急いでもらう必要がある。こうした対応で9月上旬に被災した紀勢本線は、12月3日に全線復旧した。通常の工期なら、倍以上の時間がかかっただろう」
「復興に早く着手するには、事前復興計画の策定も重要だ。計画があれば被災後すぐ工事発注に入れ、迅速な復興が可能になる。すぐに発注に入れば国の助成も受けやすいし、早く復興すれば、復興が遅れている地域の分まで人を集められる可能性もある」
「対策に臨む自治体には『命をどうやってつなぐか』と『どうやって早く復旧するか』『どうやって早く復興するか』の三つのレイヤーで、適切な対策を打ってほしい」。
(にさか・よしのぶ)1974年東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。官房審議官(通商政策局担当)、製造産業局次長、在ブルネイ日本国大使などを経て2006年から22年まで和歌山県知事。和歌山県出身、74歳。
阪本さんのような方が、教育の力で、和歌山県にかつてあったきらめき夢トークのような機会を得て、刺激を受け、志を抱き、そして自分を超えたもののために尽くすという考えを大いに実践して、これからも頑張って行ってほしいと思います。