おかしいなあと思う制度 その1

 私は、16年間和歌山県の知事をやらせていただき、その前は国家公務員でしたから、この国の制度のもとに活動してきましたが、どうもこれはおかしいなあと思うことがいくつかありました。ちょっと言葉が悪く、ある意味不遜ですが、「悪法もまた法」ですから、私もそのような制度の下に活動して来て、基本的に法を犯してきたわけではありませんが、やはりこれはおかしい、いずれ制度を改めた方がよいと考えるものが結構ありました。以下、事柄の大きさ、小ささに関わらず列挙しますと、以下の通りです。また、もっと思いつくかもしれませんが。

1.一票の格差と参議院の合区
2.情報公開の考え方
3.交際費と食糧費
4.利害関係者とのゴルフは割り勘でもダメ
5.地方自治体の政策秘書
6.政治家はおごられるのはOKで、おごるのはだめ
7.政治家の資産報告
8.政治家の寄付金

 今後、何回かに分けて、私が感じたことを申し上げます。繰り返しになりますが、制度は制度ですから、我々はこの制度を守り、あるいは尊重し、さらにはこの制度を活用している人を非難してはいけないということはもちろんです。

1.一票の格差と参議院の合区
 政治の問題で、一番よく出てくる問題は一票の格差の問題だと思います。民主主義は個人の権利を尊重する制度ですから、その大事な参政権の重みが人によって違うということはよくないことは当然です。ところが、日本では人口の大都市集中と田舎の地方の過疎がどんどん進んでいますから、選挙を行う単位としての選挙区の区割りがいつも問題になります。各選挙区で、人口当たりの被選挙者の数が違うのはけしからんという訳です。特に都道府県の区割りが問題になり、選挙があるたびに、マスコミは今回の選挙での一票の格差はいくらいくらであったと報じ、そういう問題にセンシティビティが高い社会運動家や弁護士さんは、そんな一票の格差があった選挙は無効だとすぐ訴訟を起こします。憲法の法の下の平等に反するというのです。この格差はどんどん開く傾向にあり、裁判所の判決は、さすがに今回の選挙は無効だという判決はなかったように記憶しますが、違憲だとか、違憲状態だとかの判決がよく出されるようになりました。そこで、政府も国会もさすがにこれは放置できないであろうということか、選挙法の改正が何度もあり、選挙区の是正が行われています。大都市はどんどん選挙区が増えて、田舎は減っていきます。また、それに伴って選挙区の再編も行われ、ある政治家が自分の支持者がいる選挙区が真二つになって、別の選挙区と一緒にされてしまったというような微妙な事態がどんどん起こっているようです。アメリカでしょっちゅう行われているゲリマンダーみたいですが、内容の当不当にかかわらず、日本は動きが悪くて、一票の格差が2倍にはならないように世の中の進み具合を制度改正が追っかけているようです。一方、アメリカは、悪だくみも含め、もっと早くさっさと変更をしてしまうようです。
 和歌山のような田舎県は、こうして、選挙区の数も、選出できる議員の数もどんどん減っているのですが、和歌山の人の中には、「大体東京などの投票率は和歌山などに比べるとずっと低いではないか。それを人口比で単純に区割りするのは間違いだ。」ということを言う人もいます。この意見には私は組しませんが、このような一票の格差を是正する制度改革はどんどん進みまして、衆議院の区割り改革にとどまらず、とうとう、参議院の合区にまで発展してしまいました。私は、他の国の制度を見てみても、つらいけれど衆議院の区割り改革は仕方がないことだと思っていますが、参議院の合区は別です。一つの県が一人も参議院議員を出せないというのは明らかにおかしいと思います。連邦国家と単一国家の別はあるかも知れませんが、アメリカでは下院は選挙区調整がしょっちゅう行われていますが、上院議員の数はどんな大きな州も小さい州も同じです。その方がずっとすわりがよいように思います。このように、日本における、「一票の格差だけが大事だ」という世論には反発を覚えます。
 一票の格差がどこにあるかと言うと、現実に選挙を規律する選挙法は、格差を容認しているので、この法律が合憲か違憲かということになります。憲法は、第14条第1項で「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。」と定めてありまして、一票の格差が憲法に反するというのは、この法の下の平等という規定を根拠にして裁判所が判決でそうと判断しているということなのです。すなわち、一票の格差は絶対にいけないと憲法の条文に書いてあるわけではありません。
 私は、それはそうだけれど、憲法は一票の格差だけが大事だと本当に言っているのかということがずっと疑問です。憲法にはほかにも重要な規定がいっぱいあります。地方自治もその一つで、憲法は、直接都道府県を置くとかと言ったことを決めているわけではありませんが、第92条で、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」とありまして、地方自治法で都道府県や市町村の様々なことが決まっています。憲法の定めるところに従って、法律で決められて、その結果が、時間の経過とともに、住民の意識や文化に大きな影響を及ぼすようになった都道府県の制度ですが、その都道府県がいくら人口が少なくなったからと言って、自分の県の代表を参議院に送れないというのはおかしいのではありませんか。都道府県のことも憲法の条文には書いていないし、まして、都道府県の代表を参議院に送る権利を有するなどはもちろん書いていないのですが、書いていないということなら一票の格差は何が何でも是正しなければならないということも憲法のどこにも書いてはいません。すべては裁判所の判断ということなのです。私はずっと、このような無条件の「一票の格差はけしからん」と言う世論に疑いを持っています。裁判所は憲法の地方自治に関しても、少しは尊重して、現にこうして都道府県が存在しているのだから、各県が一人は代表を参議院にも送る権利があるという判断をどうして出来ないのかと思う次第です。
 ただし、こうして判例が積み重なってしまった今となっては、判断を根本的に変えよというのは無理であると、私も思います。
 したがって、ようやく皆が真面目に考え始めた憲法改正のメニュ―にぜひ参議院の合区解消策を入れてもらいたいと思います。「憲法改悪はんたーい」とただただ言うのはやめましょう。