前回に引き続き、おかしいなあと思う制度を申し述べます。今回がとりあえずの最終です。
7.政治家の資産報告
私は、この間まで知事をしておりまして、知事も政治家ですので、政治家の資産報告義務に従って、自らの資産を全て報告しておりました。政治家になったのはもちろん初めてでありますので、就任後早々職員から報告の様式を渡され、知事の資産をこの様式に従って書いてきてくださいと言われて、恥ずかしながらびっくりしました。
なんでそんなことをしなければいけないのか、と色々調べてみると、なるほど、なるほどという歴史的経緯もあることが分かりました。これは国会議員を対象とする「政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開に関する法律」というものが始まりです。1992年12月に公布されていて、1993年の初頭から施行されております。この法律ができたのは、リクルート事件などの国会議員の不祥事が相次いだからであります。国会議員が怪しげなお金をもらって資産を増やしているというのはけしからん、というのが動機ではあったと思います。これは、国会議員にかかる義務ですが、この法律の第7条に地方公共団体は、それぞれの首長や議員といった選挙で選ばれる人の資産公開の制度を条例で作るようにせよという規定がありまして、この規定に沿って、それぞれの地方公共団体が1995年末までにこの条例を作り、1996年の初めから、地方における資産公開の制度も発足したわけであります。
言われてみればなるほどという制度でありまして、政治家が職務を利用して私腹を肥やすというのは最高にいけないことでありますから、それを防ぐために、政治家の資産の状況を白日のもとに晒すというのが、この法律及びその法律に従った条例の趣旨であろうかと思います。しかし、もっと考えてみると、政治家が持っている資産も、その人が政治家である時代に築き上げられたものとは限りません。おそらく、ほとんどの人は、先祖伝来の資産を政治家になったが故に公開させられているという状態ではないかと思います。先祖の時代から所有していた資産を、上記のような理由からとは言え、何ゆえに世の中に晒さなければいけないのでありましょうか。私も、このような先祖伝来からの資産や親からの相続財産がありますし、それほど高給ではありませんでしたけれど、国家公務員時代の貯蓄も建てた家もありました。そんなものをプライバシーもへったくれもなくて、どうして世の中に公開しなければならないのか、極めておかしいと思いました。さらによく見ていると、国会議員の資産公開を、各新聞が一面か二面うち抜いて、一覧にして報告をしているようですが、果たしてこれで国会議員の不正蓄財を防げるものでしょうか。恥ずかしながら私もそうですが、その一覧表を見て「ほうほう、あの議員は結構お金持ちなんだな。この議員はとても力はありそうなんだけど、個人資産はゼロなんだな」などと出歯亀趣味を満足させるだけに終わっているのではないでしょうか。県内でも事情は同じで、報告された知事や区町村長の資産が時々新聞に載りますが、これを見て、不正蓄財がないかどうかをチェックしてみようという人は果たしてどれだけいるでしょうか。おそらくは、「へえ!あの人は結構お金持ちだなあ。」などという覗き見趣味的な気持ちで楽しんでいるだけではないかと思います。
私も、規則は規則ですから、不愉快な思いをしながら、一生懸命自分の資産を調べ直して、書式に書き込み、県庁に報告をします。すると、それが新聞などの載るわけであります。
私は、あまり政治家らしい政治家ではなかったと思いますが、一応選挙にも臨まなければなりません。それには、多少は費用もかかりますので、後援会を作り、会費を集め、4年間の任期中に1回か2回、「励ます会」パーティーを開催して、皆さんから浄財をいただいておりました。そういう私が、何もわからない一回目の知事選挙をどうやって乗り切ったかというと、推薦をしてくれた自由民主党が、ボランティアで様々な支援をし、支えてくれたおかげであります。しかし、2回目からは、自分で自分の選挙はまかないなさいと言われていたので、当選後、高校の同級生や特に応援をして下さった少数の財界人などを中心にして後援会を作り、体制を整えようとしました。しかしながら、私のことですから、行政としての知事の仕事に没頭しているし、和歌山県の行政から見返りモデルを追放しようというのが私の政治姿勢でしたから、当然自分にもその方面からの支援は期待できません。後援会の会費もなかなか思うように集まりません。そういう事態でしたので、私は、後援会立ち上げ時の費用と2回目の選挙の費用に、自らの貯金を取り崩して、結構多額の寄付を後援会にしまして、活動資金に充ててもらいました。知事に就任した時は、識者から、知事の退職金は大きいので、これを次の選挙の費用に当てていけばなんとかなると言われていましたが、数次にわたる改革により、退職金の手取り額は、昔日の半分ぐらいになってしまっていて、これでは後援会の維持費用や、選挙の時の諸費用が賄えません。そこで、自らが寄付をして繋いでいったのであります。
子供の頃からよく聞いた話として、藤山愛一郎さんという立派な政治家がいて、上品な顔立ちとソフトな政治姿勢で国民に大変人気のあった方だと思いますが、この方は、もともと父である藤山雷太さんという財界の大物が作り上げた資産を、つぎ込んで政治活動をしていたと言われていました。世間では、このことは、美談として語られていましたが、私はちょっと違うと当時から思っていました。自分の資産をつぎ込んで政治的支援をお金で買っているとも考えることが出来るなと思ったからであります。その私がまさに同じことをしているわけで、これではいけないな、自分のお金で知事職を買ったように見えるのは、極めて不本意であると思っていました。それで、いつか後援会費収入が増え、その他収入も併せて、後援会活動が維持できるようになったら返してもらおうと思っていました。知事をすることによって、自分の資産が増えもせず、減りもせずというのが理想だというのが私の考えであったので、出来ればそうなるといいなあと思っていました。大変幸いなことに、その後後援会収入は増えたので、4期16年知事を務めている途中で、私からの貸金は全額返してもらいました。
余談が過ぎましたが、政治家がその職権を生かして蓄財に励むというのはもちろんいけないけれど、それを防ぐために、政治家が持っているすべての資産を公開せよというのは、明らかに行き過ぎではないかと思います。
ではどうしたらいいのか、時々私は考えました。その時の考えは、次のとおりであります。
二つの方法があると思います。一つは、その職務に就いた時最初に、その人のすべての資産をしかるべき機関に報告をし、その報告は何か問題が起こって参照しなければいけない時まで、門外不出として封印され、毎年の報告は、その職に就いたときから資産がどう変動したかだけを報告をして、それは公開するというものであります。もう一つ、は現在のような報告制度は維持するけれど、公開は控えて、報告者に汚職の嫌疑などが起こった時、しかるべき手続きのもとに、法的に権限のある人が報告をチェックすることができるというものであります。いずれにしても、虚偽報告はいけないわけですので、虚偽の報告をした場合は、その職を辞することなど厳重な処罰を講ずべきだと思います。この点については、現在の制度よりも厳しくなるわけであります。これによって、政治家の言動は、いざとなったら白日の下にさらされるようなチェックを受けることで、不正が防げるし、ただの出歯亀根性で人の資産を覗き見をするということができなくなると思うのであります。
非政治家的人間の私が政治家になってしまって、非常に不愉快な思いをしたことから思いついたアイディアであります。