大阪・関西万博の開会おめでとうございます。

 4月13日大阪・関西万博がオープンです。おめでとうございます。大変楽しみです。正式名は「2025年日本国際博覧会」というのだそうですが、我々は大阪・関西万博といったほうがずっとなじみです。万博が大阪で開催されるのは1970年以来で、当時は熱狂的な期待と歓迎のもとに開催されました。もちろん当時大学に入ったばかりの私も友人と一緒に見学に出かけましたが、ものすごい人の数だけが印象に残っているにすぎません。そして、途中の愛知の「愛・地球博」を挟んで今回の万博にたどり着きました。
 4月12日万博会場のEXPOホールで、開会式が、天皇皇后両陛下、2025年日本万国博覧会名誉総裁の秋篠宮皇嗣殿下同妃殿下の御出席を仰いで開催されました。私も前関西広域連合長の故か、ご招待に預かりましたので出席させていただきました。天皇陛下のおことばや様々な方の挨拶にアトラクションがうまく挟まれていて、その一つ一つが心を込めて語られ、演じられているように思えて、素晴らしい開会式であったと思います。大きな大会には開会式があって、それにはアトラクションがつきものですが、大体は大手広告代理店が作った、どこも似たようなマスゲームの集まりで、ちっとも胸を打たないのですが、今回の開会式は心がこもっていたように思いました。実は私が知事を務めていた時期の和歌山県はいろいろな大行事が目白押しで、どうせやるからには、大手広告代理店に丸投げではなく、自分たちで考えて、それぞれの会の趣旨に和歌山を融合させたアトラクションを手作りで作ろうと考えまして、かなりの細部まで、私と県庁チームが企画・演出を致しました。そのために先催県のイベントは必ず観客席から眺めて勉強し、それを我々の企画に取り入れました。自慢に聞こえると思いますが、あえて申し上げると、いままでに見たこの手のイベントでは、和歌山県の国体と障害者体育大会と国民文化祭がトップスリーだと勝手に思っていましたが、今回の大阪・関西万博は、それらを凌駕したものだったと思います。(そう言えば、和歌山の国民文化祭の開会式には今回と同じく尾上菊之助さんが出演してくれたのが懐かしく思い出されました。)今回の開会式は、IT技術も駆使して、会場いっぱいをスコープに、多くの若者が躍動するという点で最高の出来栄えだったと思います。誰が実際の演出をされたのかは存じませんが、素晴らしい開会式をありがとうございました。
 皆さんのご挨拶は素晴らしいものでしたが、「ありがとう」を7回繰り返した大阪府の吉村知事の挨拶はとりわけ印象に残りました。内容も形式も素晴らしいと思いました。しかし、年上のおじさんからすると、若い吉村さんが「ありがとう」と連呼するのは、ちょっと上から目線的で引っかかるなあと思うところもありました。「ありがとうございます」の連呼だと丁寧で謙虚でいいけれど、言葉が長くて表現がダサくなるので、あえて言えば、「感謝します」の連呼にして、最後に、「あらゆる人々とこの地球への感謝を込めて、そして人類の未来への大いなる期待を込めて、皆さんの大阪関西への御来訪を歓迎します。」なんてやったら格好がよかったのになどと後で勝手に思いました。余計なお世話でした。

 大阪・関西万博の博覧会協会の事務総長は石毛博行さんです。経済産業省同期のナイスガイで、JETROの理事長としても大活躍をした後、任命されました。振り返ると、この大阪・関西万博は初めは本当に難産でした。私が解説するまでもなく、様々な障害が起こって、そのたびに、石毛事務総長がぼこぼこにされて、本当に大変な目にあいながら、粘り強く切り抜けてきた努力がこの開会式で報われたと思います。大阪・関西万博は多くの人が支えて来たけれど、一番大きな力になったのは、関西経済連合会の松本正義会長のゆるぎないコミットメントの表明と関西財界へのリーダーシップであったと思います。石毛事務総長は開会式冒頭に開会の辞を述べました。万感の思いが込められていたものと思います。

 開会式が始まるまでの間、出席者は日本政府館や大屋根に行く機会がありました。そうしたら懐かしい方にたくさん会いました。万国博を所管している経済産業省の方はとりわけたくさんで、皆さん、お客さんなのか現場の案内人なのかよくわからない感じでお客さんのお相手をしているように見えました。そのうちの一人が現在経済産業政策局長の藤木俊光さんであります。実は大阪・関西万博誘致に特に熱心に取り組んでいた、当時関西広域連合副連合長の私は、担当局長である商務流通審議官の藤木さんをよく訪ねていました。当時は、2025年万博はまだ日本に決まってはいず、ロシアとアゼルバイジャンが対抗馬でした。フランスもそうだったのですが、オリンピックに専念すると辞退したので、日本の楽勝ムードが漂っていた頃でした。藤木さんにお伺いすると、決してそんなことはなくて、ロシアも国を挙げて取り組んでいるし(すなわちお金を配り歩く可能性があるし)、アゼルバイジャンも途上国で万博をというスローガンは世界中の途上国の共感を呼んでいるので結構強敵だということでした。万博はオリンピックと違って政府がその国を代表します。したがって、IOC委員が投票権を持っているオリンピックと違って、政府が投票権を持ちます。オリンピックをどこにするかについてはIOC委員の投票で決まりますが、万博は国の投票です。したがって、一回目の東京オリンピックが東京に決まる際に、フレッド和田勇さんが中南米のIOC委員を説得するために自費で中南米を行脚したようなことは不要ですが、その代わり、その国がどれほど友好的かということが問われるし、時には国と国との露骨な取引がありうるかもしれません。すなわち外交の世界なのです。
 大阪・関西万博の場合も関西の有名人がPRのために各国で説明会をするため盛んに外遊をしているのですが、これに関する日本の報道は、「そのプレゼンがその国でとても人気を博した」といった「大本営発表」ばかりで、先の投票メカニズムを考えると、上滑りが恐ろしいという感じでした。藤木さんも全く同じ意見で、外務省と共闘して、国ごと味方につけるように外交に全力を挙げているところだという感じでした。私が考えるに、おそらく万博の開催国の投票には二つのポイントがあって、大きいほうの一つ目はそれこそ国と国の貸し借りや信任、もう一つは接戦になったときに事務局によって用意される客観的データ。二つ目を有利に運ぶためには、国民が万博にいかに期待し、支援しているかという客観的な数値データがいるので、各県に作られた個人、法人別の支援協賛組織にいかに多くの人が参加しているかをデータで示せるようにしたほうが良いと考えました。まず隗より始めよですから、私は和歌山県でこの協賛組織を大きくすることに取り組みました。途中経過ですが、和歌山県は、万博を応援する個人、企業の数が大阪に次ぎ兵庫などと並んで上位に食い込みました。個人でいうと、人口が10分の1以下の和歌山県が東京都の協賛者を上回っていたのです。また、政府も危機意識を持ち、それぞれの姉妹都市、姉妹県関係を通じて相手国が日本支持に回るように説得してくれという依頼がありました。多くの自治体がその意を受けて、相手国のカウンターパートに手紙を出したと思われます。しかし、おそらくこれは効きません。決定権を持っているのは政府ですから、地方自治体が、万博の開催国決定の投票といった問題で、政府の意思決定に影響力を行使できるとは思えないからであります。藤木さんにはそういうアドバイスをしつつ、例外的に和歌山県はいくつかの国の中央政府と直接の良好な関係を有していたので、熱心に働きかけをしました。その中で、わざわざ本件で日本を支持するという返事の手紙を出してくれた国もありました。(働きかけをしようとしたら、万国博覧会条約に加盟していないということが分かった国もありましたが。)
 おそらく藤木さんを切り込み隊長に経済産業省、外務省、在外公館が大変な努力をして2025年日本万国博覧会開催決定を勝ち取ってくださったのだろうと思います。今、こうして大阪・関西万博の開催を喜んでいるすべての人は、あの時の政府の関係者の献身に感謝をしなければいけないと思います。開会式の藤木さんは、政府関係幹部というお客様としての性格と、手塩にかけた万博のお守り役としての性格と両方を兼ねてそこにいるように見えました。

 今回開会式に出席するにあたって、一つだけ残念なことがありました。それは、関西館と中でもその中の和歌山ブースが見られなかったことでした。13日からのオープンに備えて、準備作業をしているので、お見せする環境にないというのが関西広域連合の事務局の方のお話でした。この関西館にはとても思い入れがあります。初めは、大阪館は予定されていたけれど、関西、その代表としての関西広域連合はパビリオンを建てる計画はなかったのです。私は、せっかく大阪・関西万博と名付けてくれたのだから、関西館がなくてどうするかと同僚の知事さんたちを説得して関西館建設にこぎつけました。一部反対の知事は残りましたが、関西広域連合の申し合わせである、反対であるプロジェクトには参加はしなくてもいい。その際資金分担もないが意思決定にも参加しないというルールを用いて、全体としての関西館建設に漕ぎ着けました。
 次の問題はその中身です。おそらく参加府県市の中でも、この関西館をどういう内容にするかはなかなか意見が集約できないだろう、したがって、関西広域連合事務局が仕切る共通スペースは皆で内容を議論することにして、多くの部分は希望に応じて各県にブースを分割し、その中身は各県に任せるという方式を提案して、皆さんの同意を得ました。
 次は和歌山県のブースをどうするかですが、私のアイデアは観光の宣伝塔にしよう、ここでバーチュアルな和歌山の観光スポットの体験をしてもらって万博会場を出たら次はリアルな和歌山観光に来たくなるような仕掛けを作ろう、そのため3Dでバーチャルな観光体験をしてもらったらどうかというものでした。どうせブースも広くないし、高邁なコンセプトの展示をしてもなかなか人の心を捉えられないのではないかと思ったからでもあります。さすがにこういう観光客を万博を機に和歌山に呼び寄せようという実利オンリーの企画は和歌山県の新政権では採用されず、東大先端研の俊才吉本秀樹特任准教授のデザインになる高邁なコンセプト「和歌山百景-霊性の大地」が採用されて、これは見ものだと大いに期待しているところです。今回は大屋根と日本政府館以外は見られませんでしたが、また機会を見つけてゆっくり見学したいと思います。

皆さんもぜひ大阪・関西万博をお楽しみください。