私は経済産業省の出身ですが、在職中に4度も他省庁に出向しました。科学技術庁原子力安全局、国土庁官房総務課、経済企画庁調査局、経済企画庁官房企画課ですが、役人生活の最後は駐ブルネイ大使ですから、これを外務省と考えると5回になります。いわゆる他人の飯を食ったわけですが、多少の苦労は当たり前として、出向先でよき友に恵まれて、通産省・経産省にいては経験できないような領域についての見聞も広めることが出来ました。その時は後に知事になるなんて夢にも思わなかったのですが、知事になってからこの出向時代に会得した知識やノウハウがものすごく役に立ちました。
前回のメッセージ(「普請中の国日本」)では都市計画の話を書きましたが、この問題を初めて意識し始めたのは、1987年から1988年にかけて国土庁の官房総務課に筆頭課長補佐として出向していた時でした。当時の国土庁は、一方では狂乱地価対策を抱えていましたが、全体としてはちょうど第4次国土総合計画の仕上げの時期で、私が赴任して間もなく閣議決定がなされ、その策定にかかわった人たちは満足げに様々な場でこの四全総をPRしていました。私はただ一生懸命これを勉強をしていたのですが、その後竹下内閣が発足し、奥野誠亮大臣が国土庁長官になられると、大臣から大号令がかかりました。四全総の実施法を作れとの大号令です。大臣曰く、「四全総はできたが、その目標の実現のための手段がない。多極分散型国土の形成が目標だとうたっているが、その実現が出来なければ何の意味もない。実施のための総合的な法律を国土庁が中心になって作ろう。総合的な地域振興開発法を作るのだ。私は竹下総理にその信条である多極分散型国土を作らせてあげたいのだ。」この大号令で国土庁は大騒ぎです。でも、私は大いに共鳴しました。四全総はあくまでも計画だ、計画は実現して初めて意味を成すもので、そうでなければただの絵にかいた餅だからと、私はそう思いました。おそらく、当時の事務次官であった吉居時哉さんや官房長であった清水達雄さん(その後参議院議員)もそう思われたと思います。
国土庁は、1974年に発足した歴史の新しい役所ですが、それまで各省庁にあった機能を一部切り取って寄せ集めたような役所で、それぞれの部局の独立性が強く、それぞれは結構法律も立案して国会を通していただいてはいるのですが、全庁がまとまって一つの法律の成立を図ろうとしたことなどそれまではありませんでした。今回も大臣の仰せなので、皆それらしい法律を作ろうとするのですが、他局と協力をしてという姿勢は全くありません。そこで、清水達雄官房長の命を受けて官房総務課で法律の青写真を作ることにしました。また、その体制も作らねばなりません。何せ国土庁は出向者の寄せ集め官庁ですから、それぞれの出身省庁の意向が強すぎる部局は避けて、あまりその色彩が強くない経済企画庁出身の局長を擁し、四全総の策定に関しても主管局であった計画調整局に法案作成作業の中心になってもらうという体制を作りました。他局はこれに協力するという体制です。経済企画庁出身の方々はその当時長い間法律事務から遠ざかっていたので、法律の構成企画や条文作成作業、各省との調整作業、国会との調整など慣れていないことが多く、他局のそういう作業に慣れている他局の人はなかなか協力をしようとしません。そこで、官房長の威も借りながら、私が法律の基本コンセプトを作って、それを計画調整局に担いでもらうことにしました。この法律は、まず、地方公共団体がそれぞれの発意で自由に自らの地域の総合開発計画を描いて、それを実現するにあたっては、政府の関係省庁が応援をするというものにしました。今までになかった新しい発想です。そして、その時に各省が地方公共団体をリードして進めていた、テクノポリス計画、頭脳立地計画、リゾート計画などの個別プロジェクトは、地方が必要と思えば総合計画の中に書き込んでもよいことにして、その応援はそれら個別プロジェクトの推進担当省庁が行うことにしました。それぞれの省庁の権限とこれまでの実績を他が侵さないように工夫したのです。そしてそういう担当官庁がない領域の、新しく考えたプロジェクトだけを国土庁が直接応援をするという構想でした。この法律は、大変な難産の末、「多極分散型国土形成促進法」として成立しました。(成立までの経緯は無茶苦茶面白いのですが、全部省略します。)この法律が成立した時は、私も我が事なれりと大変感激した思いがあります。しかし、大臣も次官も官房長も、それに法律成立まで心血を注いだ担当の人達も、そしてかく言う私も、間もなく国土庁を去った後、この法律の運用は、色々な個別プロジェクトを地域の発意で自由に取り入れて作る総合計画法から、他の省庁が手を出さない、「その他プロジェクト振興法」になってしまい、結局はあの奥野大臣の描かれた四全総を実現するための総合立法という理想からほど遠いものになってしまいました。いささか残念です。
話が脱線しました。今回の本旨は都市計画と全総計画です。
②(全2回)へつづく