コロナの流行はとどまるところを知らず、今回の第3波は、特に高齢者に感染者が多く出たためもあって、重症化する人や亡くなる方も、第2波の時とは大いに違って、大変多くなっています。
特に大阪の感染はひどく、重症者も多いので、大阪の重症病床は、満床に近づいて、このままだと医療崩壊というところに来ています。
大阪は吉村知事が、キャッチーな宣言を出したり、住民に行動の制約、自粛を呼びかけるだけの人とは違って、保健医療行政の指揮官としても熱心に動いているように見えるし、その一環として、既存病院のコロナ中等症専門病院への改変や、医療体制の整備、重症者専用病院の建設などにも意を用いてきていただけに、大変お気の毒だと思います。
大阪府からは、ベッドがあっても看護師がいなくて稼働できないということで、看護師派遣SOSが来まして、和歌山県がいち早く2名の看護師さんを派遣することを決めたほか、関西を中心に全国からも応援が続き、さらには政府も自衛隊の医療チーム派遣を決めたと報じられています。実は、今回の要請は、ICUで勤務できるハイスキルの看護師という要請でありまして、他県もそうでしょうが、和歌山のような小さい県では、ほんの限られた人しかおらず、かつそれらの人が和歌山のICUに張り付いている状態ですから、下手をすると和歌山のICUを止めてしまうという事になりかねない困難な要請でした。ICUはコロナの重症者だけでなく、命が危ないような患者が最後に担ぎ込まれる所ですから、これが使えなくなると、コロナのみならず、他の病気や事故で命の危ない人を救えなくなってしまいます。しかし、一番困っているのは、今は大阪だから、人の道ということで、皆で協力し合って行ってもらうことにしました。
このように、大阪をはじめ、全国で医療崩壊が近づいている感がありますので、国民の危機感が高まっています。当然、政府もどう対処すべきかの議論が急ピッチですが、国会もマスコミも、今やこの議論が噴出しています。マスコミなどの報道では、医療崩壊の危機が迫っていて、医療現場は大変だという状況が大いにクローズアップされ、医療の専門家が登場して危機を訴え、人々が行動を自粛してくれて、感染をしないようにしてくれなければ、もう医療が持たないという発信を強くされます。また、こんな大変な時にGoToトラベルやGoToイートなどはとんでもないことで、しばらくはやめよ、そればかりか、こういう危険を考えずにGoToトラベルなんぞ考えた菅総理や政府がけしからんといった声が野党政治家の口を借りて叫ばれます。
しかし、私は、これだけではないのではないかと思います。理論的には医療現場が大変だから、一挙に国民の行動を自粛させよというのは、その両者を繋ぐ大事な機能についての考慮を全く欠いた議論ではないかと思うからです。
図のように、今回の問題を考える時の構造は次のようになっています。すなわち、国民の誰かがコロナにかかったとしますと、その人と病院との間に保健所や、それを統括している都道府県の保健医療行政チームがいるわけです。この人達が陽性者を隔離し、その陽性者から行動履歴を聞いて、他に感染している人がいないかを発見して、PCR検査をし、隔離し、行動履歴を調査して、という地道な努力をずっと続けているのです。
この人達は、陽性者又は患者を適当な病院へ入院させるアレンジも(和歌山や他の感染を比較的抑え込んでいる県は全員入院です。)するわけで、この人達がコロナの感染を局地的に抑え込めていれば、コロナの爆発は防げて、病院の崩壊などは起こりようがないのです。
和歌山県のこのチームは本当によく仕事をしてくれていまして、そのトップたる私は、ただただ彼らを慰めたり、励ましたり、スタッフを増やして援軍を送ったり、メインの仕事に専念できるように周りの雑務は他の部隊で処理するように取り計らったり、そんなことを一生懸命しています。仕事の様子も詳細に聞いていますので、現場でどんな活動がされているか分かってきますし、他県がその点でどうなっているのかも如実に分かります。東京・大阪のように爆発してしまうとその収拾にはとても時間がかかるのですが、そこをまじめにしっかりとやっておかないと、感染爆発が起こるぞということもよく分かります。
特に隣県大阪は、他人事とはとうてい思えないので、何度か気の付いたことを「差し出がましいようですが・・・」と断った上、アドバイスをしました。しかし、中々改善も出来ぬうちに今の爆発をよんでしまったのは、大変残念であります。
一例を挙げると、和歌山の人と大阪の人が会食をしていて、和歌山の人の感染が確認されたので、当然その濃厚接触者ということで、大阪に通報をしました。我々は自分達がやっているように最寄りの保健所がすぐに飛んで行って、その人にPCR検査をして、感染しているかどうか確かめているだろうと思っていたら、その後、検査がされていないことが分かりました。仮にその人が発症していたら、あるいは無症状の感染者であったら、更に大勢の人にうつすことになります。こういう状態が続くと、いずれ感染爆発が起こるのは理論的に自明であります。私はこういう例を発見した時には大阪に通知して、偉そうにならない程度に、改善しないと危ないですよ、爆発に繋がりかねませんとアドバイスしていたのですが、中々改善に繋がらず残念でありました。現場が忙しすぎて、分かっていても対応できなかったのかもしれません。
今や、大阪の感染の爆発により、和歌山にも火の粉がどんどん飛んできまして、和歌山の保健医療当局も大忙しであります。大阪の南部は元々3次救急が脆弱なので、最後の砦は和歌山市の大病院という形で駆け込んで来られることが常態化していたのですが、大阪の方は分かってもらえているでしょうか。最近は命に関わりかねない肺炎患者が大阪から救急車で運ばれてきたと思ったら、病院に入る際の抗原やPCR検査で陽性が判明し、直ちに和歌山のICUに準じる病床が一つ埋まってしまうことになりました。看護師を応援に派遣しているだけでなく、コロナの重篤患者までICUに受け入れているのです。(同様な例が複数あります)。しかも、後で分かったのは、この患者さんが入所している問題の福祉サービスで既にコロナ患者さんが出ていたということです。コロナ患者が出ていても接触した可能性のある人をもう調べられなくなっているということでしょうか。
このようにコロナ問題を考える大事なパーツは、国民一般の行動をどうするか、どのくらい制限するかということと、医療現場の崩壊をどうして防ぐかということに加えて、コロナ患者が発見された時、この人をいかに上手く隔離し、入院等アレンジをし、この人の行動履歴から感染している可能性のある人をあぶり出して検査をし、陽性者はまた入院のアレンジなどをするということであります。
このような保健医療行政の機能強化こそ、この危機に際して最も問われるべき事だと、現場の苦労を見て、心を痛めている私は思います。
しかし、世の中の動きは全く違います。この事を吹っ飛ばして、医療現場が逼迫したら、とたんに国民の行動を制約せよという議論に短絡してしまっています。保健医療行政と言えど行政ですから、県知事が直接指揮し、工夫も出来るところであります。県知事は、こういう組織の長であるわけですから、まずはここを機能全開になるように強化する責任があると思います。国民一般に行動の変容を迫る前にやることがあるのではないでしょうか。そしてその機能が不十分であるというのなら、それは、100%その行政の最高責任者である知事の責任です。
そんなことを言っても、もう爆発が起こってしまったものは言ってもしようがないという意見もあるでしょう。しかし陽性者の取り扱いを一人ひとり丁寧にやっていくことによって、少しずつ少しずつ事態は好転していくと私は信じます。さらにこの保健医療行政の再建強化をしていることを条件として、感染爆発の大混乱の時だけは国民一般に行動の自粛をお願いするのも考慮に値します。しかし、そちらを放置していては、国民がいくら自粛しても、中々感染は収まりません。
ではどう改善したら良いのでしょうか。爆発している県も上手くやっている県も拠るべき法律や使うべき組織は同じです。それなら、運用を対比させてみて、上手くいっている所と爆発している所はどこが違うのか調べてみるのが一番早いのではないでしょうか。
私がこれまで見てきた限り、感染が爆発している地域の対応と和歌山県の対応とでは次のような点が明らかに違うと感じます。
①陽性判明者の行動履歴を徹底的に調べているか。
②そこから判明した濃厚接触者全員のPCR検査をしっかり実施しているか。
③陽性判明者の入院、ホテル入所など十分な隔離の面倒をきちんと見ているか。
④感染拡大に備えて、病院拡大、人員の手配、ホテルのリクルートなどを専門的見地から慎重かつ着実に進めているか。
⑤陽性者と言えど、たいていの場合その行動範囲は、保健所の管轄を越えているから、別の保健所管内にいるこの人の濃厚接触者の検査を命令できる保健所の統合システムを持っているか。保健所がバラバラに動いていないか。
その他もっとあるかもしれません。この手の問題は精神論ではいけません。もっと頑張れと司令官が言うだけでは失格です。大事なのは技術です。その技術は、今の事態とコロナの感染状況から出てくる論理的な考察によってしか生まれません。
和歌山県はその点必死で頑張ってきたので、多くの知見もありますが、最近は感染者も多いので、もっと上手く感染を抑え込んでいる県のことも大いに参考にされたらいいのではないでしょうか。
しかし、大阪など既に大変なことになっているのに、課題が見つかっても、もはや身動き取れないよ、酷なことを言うなと言われそうです。よく理解できます。とは言え、人間は考える動物です。工夫の仕方で悲惨な状況を少しは改善できるかもしれません。
この保健医療行政分野においても、専門性を有する保健所のチームを疲れさせてはいけません。和歌山県では、専門的知識が無くても出来る仕事を専門性の高い人に出来るだけやらせないように、他の部署の人達も保健所の業務の周囲に配置し応援にも行かせています。また、ICUの看護師さんならすぐに習熟というのは無理ですが、保健師さんなら市町村に別の仕事をしている人がたくさんいます。また、ICUの専門性を問わなければ看護師さんも保健所のこのようなオペレーションを少しは応援してくれるかもしれません。その方々をパンク気味の保健所に投入して、ここを建て直せば、感染者の発生自体が抑えられ、医療現場への負荷が少しは減るのではないでしょうか。医療現場へのてこ入れだけが工夫の種ではありません。
和歌山県は、大阪ほど大変な状況にはなっていませんが、既に以上のような措置が出来るようなスキームは整えてあって、現に、一部では現実に応援もしてもらっています。
同じ法律、同じ制度で、何故こんなに違うのか、今こそ比較して調べてみるべきではないでしょうか。それがコロナで危ない日本を救う唯一の道だと信じます。しかし、時々思います。こういうことを考えるのは、本来国なのではないか。もっと端的に言うと、国の首脳にアドバイスする立場にある保健医療の専門家なのではないか。そのようなひとがどうして、GoToはどうだとか、国民の行動の変容、自粛ばかり言われるのでしょうか。不思議です。そしてこのままだと日本が危ないと思います。