ファーストペンギンの後に列はあるか②(全3回)

 もう一つの「パクリ」は高知県の住宅の耐震強化政策です。和歌山県は、南海トラフの大地震が必ず襲ってくるという地にありますが、世の中では東日本大震災の記憶から津波ばかりを恐れています。しかし、実際は津波よりも人の命を脅かしそうなのは地震そのものです。地震による住宅の倒壊が、古くて耐震強度の不足している家に住んでいる人が多い和歌山県では、津波が来る以上に恐ろしいのです。そのため、和歌山県はおそらく全国トップクラスの耐震補助制度を持っていまして、住民の方々にこれを使って耐震強化をして下さいと呼びかけています。自己負担が多いとそれも難しかろうと、自己負担が少なくなるように、また、様々なメニューを工夫して耐震強化を図ろうとしているのですが、県民性か、お年寄りが多いせいか、なかなか改修が進みません。やはりいささかでも自己負担があるということがネックになっているのかなと思案していたところ、高知県に自己負担ゼロの補助制度があると聞きこんで、早速職員に詳細調査に行かせました。その結果、適用範囲はかなり狭いけれど、改修に伴う自己負担が本当に実質ゼロになる制度があるということが分かりました。次の年度の新政策・予算でこの制度を追加したのは言うまでもありません。

 このように、他県でこんないい制度があると聞きこむと、早速調べに行って、取り込めるものは取り込むという方法を「パクリの仁坂」はずっと取り続けていました。
 ただし、調べに行ってその実態が分かったけれど、色々検討の結果、採用しなかったものもあります。

 第一の例は東京における県産品のアンテナショップです。和歌山県は有楽町の交通会館の地下に「わかやま紀州館」というアンテナショップを持っています。関係職員や委託先の方々は奮闘してくれているのですが、規模も小さいし、場所もベストとは言えそうにないので、そう耳目を引くものではありません。ところが、私が知事になったちょうどその頃、宮崎県が折から改修が成った新宿駅南口に大きなアンテナショップをオープンし、私と同じころに新しい知事になった人気者の東国原知事が先頭になって、このアンテナショップを舞台に宮崎産品の売り込みに大活躍をしました。マスコミが追っかけるものですから、宮崎県の産品はえらく脚光を浴びることになりました。なかなか宮崎県はやるなあ、でも考えてみると、前々から進めていた販売促進政策がなければ、いくら東国原さんが人気者であるとはいえ、こんなに急に活躍はできないな、これは大いに調べてみようと私は考えました。そこで東国原さんを都道府県会館の宮崎県事務所に訪ねて行って、「宮崎県の農産品販売戦略は素晴らしいので、ぜひ和歌山県も真似をしたいので、スパイをさせてもらいたい。そのため宮崎県庁に一年ぐらい和歌山県庁の若手農業技官を派遣したい。」と正直に(露骨に)お願いをして、快諾を頂きました。余談ですが、「和歌山県も防災対策などなかなか先進的なものがありますから、もしご希望でしたら宮崎県の若手職員をバーターで受け入れますがどうでしょう。」と申し出たところ、「結構です。」とお断りされてしまいました。その結果わかったことは、ある意味では予想通りだったのですが、次の通りでした。
 宮崎県の最近脚光を浴びている農産品販売促進戦略は、やはり東国原知事が登場する前から仕込んでいたものであったが、人気者の東国原さんをシャッポにいただいたのでさらに効果があった。もっと言うと、その多くの政策は宮崎県庁の政策でもなくて、宮崎県農協の戦略で、宮崎県では単一農協の強みを生かして農協がプロモーションをどんどん引っ張っている。また、南新宿のアンテナショップは和歌山県の20倍のお金をかけて、10倍の売り上げをあげているということでした。なるほどなるほどと思い、この情報は次の年からの農産品の販売戦略に全面的に生かしていくことにしました。農協がもっと頑張れと言ってもそうすぐには対応できないから、ここは県が引っ張っていかなければいけないなとも思いました。ただ、アンテナショップはなかなか判断が難しいところでしたが、人気者の東国原さんのようなマスコミ露出が期待できない和歌山県においては、そこに多額のお金をかけても、効果は薄いかなと考えて、別の方法を模索することにしました。

③(全3回)へつづく

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