おかしいなあと思う制度 その2

 前回に引き続いて、私が国家公務員や、地方公務員である知事をしていておかしいなあと思った制度を続けます。

2.情報公開の考え方

 和歌山県知事になった私は、前知事が汚職で逮捕された後の知事ですから、そういう汚名を和歌山県が着ることが二度と無いよう、身辺の清潔さには特に気を使いました。また、そのためには、自らや県政を透明にして、情報をどんどん開示して、県民や心ある人がいつも私や県庁の監視が出来るようにしておくことがよろしいと考えて、情報公開には大いに誠実に取り組んだつもりです。その中で経験したことを申し上げます。
 情報公開と言う点では、不思議なことに前知事の時代の和歌山県政も大変熱心に取り組んでいて、前知事はそれを売りにしていたと思います。私は、そんな和歌山県でどうしてあのような汚職が起こるのか不思議でならなかったので、和歌山県のホームページをもとに前知事が主張していることをいろいろ勉強してみました。そうすると、変なことが結構出てきました。例えば、前知事は、交際費を全部公開しているのだということを売りにしていました。その情報は、県庁のホームページにすべて公開されていますから、まだ知事に当選をしていなかった時の一私人の私でも見ることが出来ます。そうすると、あんな汚職をして、色々接待を受けていたという話も聞く前知事の交際費が驚くほど少ないことに気が付きました。そのからくりは次に述べますが、私は、こんなごまかしはいけないなと思い、今まで公開していた(それにより和歌山県民をはじめ世の中の人々を欺いていた)交際費の公表ということをやめました。その代わり、私の毎日の行動を全公開して、例えば会食なども、趣旨やご一緒した人、食事などをした場所、費用を公費で支出したか、先方の負担であったか、私が私費で支払ったかの別も公開しました。自分と言う存在を人前で全公開しているわけですから、恥ずかしいなと思うとともに、これでは到底悪いことは出来ないなと思いました。誰が見ても、これで情報公開度は格段に上がったと思われると思います。もちろん、こればかりではなくて、交際費のように世の中一般の受け取り方と、地方公務員の世界とは違っていることを利用して、実態を覆い隠して、何でも公開しているのだと思わせるような欺瞞的態度もすべてやめ、真実が明らかになるような形に変えて、どんどん公開することにしました。もちろん、このような制度改革はどんどん発表して、記者会見などで丁寧に説明をしています。
 私としては、これで情報公開のレベルは格段に上がったぞと思っていたものでした。ところが、そのように情報公開のやり方を改革してしばらくして、記者会見で、ある記者から、次のような質問をされて愕然としました。記者は、「和歌山県の情報公開度が下がったと言われているのですが、汚職知事の後を受けて知事になった仁坂知事は恥ずかしくないのですか。」と言うのです。びっくりして、私が問い正してみると、各県の情報公開の程度は、「市民オンブズマン」という団体が評価をして、県別のランキングを発表しているのですが、和歌山県は木村知事の時代は高ランキングだったのに、仁坂知事になってからランキングが下がったようで、その理由は交際費の公開を取りやめてしまったからとなっているから、ということでした。私は、「何を言っているんですか、そもそも、県の交際費と言うのは、会社などで接待に使うような交際費とは違うのですよ。そんなインチキを公表してええ格好をするような欺瞞はやめにしようと考えた制度変更なのですよ。世の中の交際費に当たるような情報を開示するため、自分の一日の行動履歴を全公開して、白日の下にさらすようにしたのが、何で情報公開の後退になるのですか。」と詰問をしました。そうしたら、その記者曰く、「だって、市民オンブズマンがいつもそう発表しているのですから。」でした。
 何たることか、情報公開と言うと、勝手に名乗って、勝手に調べて、比較表を勝手に公開している「市民オンブズマン」なる団体の言うとおりに、中身も確かめないで、新聞やテレビのニュースにしていたのが、当時のマスコミの現実であったのです。「あほか」と言う気持ちをこらえて、県における交際費の意味や、新しい情報公開制度の完璧さを説明したのですが、おそらく記者さんたちは、情報公開と言うと、「市民オンブズマン」の発表するランキングをそのまま疑うこともせずに利用するというのが、前例になっているのでしょう。前例踏襲と言う思考放棄です。役人がこれをやるとあんなに叩くマスコミなのにねと私は思いました。この時、あれだけ説明しても、和歌山県の新制度を、その意味と真実を理解して報道してくれるマスコミはなかったように思います。
 さらに言うと、「市民オンブズマン」、略して「オンブズマン」とは何者であったのでしょうか。実は、通商産業省の時代に、私が「オンブズマン」の一員だったのです!以下の説明を聞いていただければ理解していただけると思いますが、かつて本物の「オンブズマン」であった私からすると、勝手に「市民」をくっつけて似て非なる組織を作って、いい加減な認識で間違った情報発信をしている組織も組織なら、それをさも権威のあるように皆が思い込んで疑いもしないこの国のジャーナリズムはどうなっているのであろうと、私は暗澹とした気持ちになりました。
 「オンブズマン」と言うのは、たしかスウェーデンかどこかの北欧の国で生まれた制度で、国の行政がおかしいと思った人が駆け込んで訴えていける政府内の組織の名称です。オンブズマンは、当該案件を所管する政府の部局と対峙して、おかしな制度は改善するように働きかけるということになっています。私が通産省の輸入課長をしていた頃は、日本の産業はとにかく国際競争力があり、外国から輸入が増えないでいたのですが、外国からすると、日本の輸入が増えないのは、日本にアンフェアーな、けしからんことがあるからに決まっていると言って、全世界が日本を攻め立てていた時代でした。こういう事態を放置すると、世界の国々が、日本の産業が拠り所にして成功していた世界の自由貿易体制そのものを壊しかねないと恐れた日本政府は、けしからんことがあると思うならだれでも政府に訴えて来なさい、そのための組織を政府部内に作っておいてあげるから、ということで作ったのが、その着想を借りた北欧の言葉で「オンブズマン」であったのです。正式な名称は「トレードオンブズマン」と言います。私は、この制度の詳細設計を担当しました。オンブズマンは、政府部内に置くが、独立の地位を持っていて、様々な制度を所管する官庁に対しても、訴えの内容を質し、訴えた方が正しいと思ったら、是正を働きかけるというミッションを持っていました。この制度を作ろうと動いたのは通産省ですが、通産省は、なんせ「インベーダー」と言われ、人の所管にも平気で首を突っ込む「嫌われもの」でしたので、ここは、中立的な雰囲気がある経済企画庁をヘッドクオーターにして、通産省も含め、各省にその窓口を作りました。この組織を「オフィス・オブ・トレードオンブズマン」、略称OTOと言います。通産省輸入課長の私はこの組織の通産省の窓口です。通産省の制度が「けしからん貿易障害」と訴えられている場合もありますから、その時はよく調べた上で、ヘッドクオーターの経済企画庁とよく相談をして、時には通産省内の当該制度の担当部局に是正を迫るという役割です。ただ、制度の創業者の立場を利用して、経済企画庁を操って全体を動かしていた感もありました。OTOの組織には、箔をつけるために、各界の第一人者を集めたOTO諮問委員会を付置していて、こういう大物の影響力も借りて、市場アクセスをよくしようとしていたのです。このOTOの活動を一つのきっかけにして実現したのが、弁護士試験の合格者数の拡大です。弁護士の数が少なすぎるので、日本では訴訟に訴えることが難しく、それが企業家が日本の市場に参入することを躊躇させているというのです。今では、「弁護士になっても、弁護士数の少なかった昔と違って、楽には暮らしていけないのです。」というような発言を弁護士さんからお聞きしたりするたびに、心の中で、「すいませんねー。私の仕業で。」と苦笑しています。
そういう訳ですから、「オンブズマン」が言っていますからと言うのは、なんじゃそれはとしか聞こえなかったのです。したがって、「市民オンブズマン」の情報公開評価が下がったからと言って、私は全く痛痒を感じませんでした。論理的に正しいことをするということだけが必要なことなのですから。ちょっと聞いて見ると、和歌山で、「市民オンブズマン」に属している人は何人いるかと言うと、3人だそうです。特定の政党の影響下にある組織ということを強調する人もいますが、それは私にはあまり関心がありません。ともかく、全国的にも、和歌山と同じくそう大きな団体ではなかったようです。それがどういう訳か、大変権威のある団体にマスコミは祀り上げてしまったようです。和歌山でもそうですが、メンバーの方々は真面目に社会正義を実現しようと思って活動しているのでしょう。ただし、その成果の正確性を考えもせず、ニュースソースとして無条件の信頼を与えていたマスコミが問題だったと思います。私も歯に衣を着せず、たまに以上のようなことを言うし、さすがのマスコミもいつの時代かに真実が分かったのか、今や、「市民オンブズマン」の発表をそのまま引用するマスコミの報道は無くなったように思います、

 情報公開に関して、もう一つ、勇気をもって手を打ったのが情報公開要求された資料の無料提供の是正の問題です。もう一つは、有権者の知る権利との関係で、当局が請求者に対して、情報の内容が請求者の理解にかなうように、親切に生の情報を加工して、提供をしてあげていたことを廃止したことです。それまで、県は膨大なコピー代を負担し、コピーを取るために職員が膨大な労働を強いられ、多くの職員を雇っておかなければなりません。現実には、情報公開請求に情熱を抱いている人がごく少数だけれど何人かいて、その人の情熱に応えるために和歌山県が県民から集めた税金のかなりの部分を使っている状況でした。これはおかしいのではないか。情報公開は必要だけれど、請求者がよく分かるように、生の情報をかみ砕いて説明をしてあげるいわれはない。必要なら請求者が努力をして、資料を解析すればよい。また、無料であることを利用して、必要かどうかも分からない膨大な資料を印刷してよこせと言う人がいるが、本当にその情報がその人に役に立っているのであろうか。いっそのこと膨大な資料を持って行った人に、その内容はいかなるものであったか試験でもしてやりたいものだ。そのようなことを思って、私は大いに情報公開の現状におかしさを感じました。情報公開と言うといいことですから、当局は、請求者の言いなりで、私が問題をあげつらったようなことを議論するのはそもそも悪と言うのが当時の和歌山県庁の雰囲気でした。また、私のような政治家も、情報公開を阻害しているなどと言われると、大悪人みたいで、選挙で嫌われたらどうしようと思うのか声をあげません。一番悪い言葉で言うと、県庁は請求者の下僕になっているようなものではないかと私は思いました。そこで、私は情報公開制度の改革に、悪人だと言われることを厭わず取り組むことにしました。まず、閲覧は無料だが、コピーは有料にしました。不必要にコピーを請求すると費用が掛かるぞという訳です。それから、請求者に分かりやすいようにという加工サービスは一切廃止しました。資料はすべて公開だから、自分でよく調べて、問題があると思うのなら、それを自分で発見せよという訳です。コピー費用を頂くか無料かに関しては、全国でもいろいろな手を打っていることを勉強して知りました。かつての和歌山のように無条件で請求者の要求に応じている所もあれば、コピーは有料と言うところもごく少数あり、もう一つは、請求者と話し合って、欲しいコピーを合意の上、絞り込んで無料で提供はするが、職員が大量のコピー取りの地獄からは解放されている所もありました。最後の方法は、検討の余地はあると思いましたが、県庁の恣意が入るという欠点もあると私は思いました。県庁側が、請求者を適当にだまして、本当に都合の悪い情報は出さないで済ますということが出来てしまうではないかと私は思ったのです。それよりは、情報公開請求者も自分の判断はあるはずだろうから、費用が多くかからないように、自分で判断して、コピー請求をする方が理にかなっていると私は思いました。私は、情報公開と言っても、県庁側も、請求者側も甘えは許されないのであって、自分に都合の良いような形に加工して提供するべきだとか、欲しいという情報は、欲しい形で耳をそろえて提供しろだとか言ったことは世間で通用するわけもないように、情報公開でも通用するわけもないのではないかと言うのが私の答えでした。
 この制度改革は予想通り大いにその筋の人達からは大いに非難されました。いわく和歌山県は情報公開と言う社会正義に逆行していると言って。
 それでも私はひるまずに事情を諄々と説明を続けました。そのうちに、改革後の制度がずっと昔からある当然の制度のように認識されるようになったと思います。少なくとも、職員が寝る暇もなく、命を削ってまで、大量の資料をコピーすると言った事態は無くなりました。また、この制度改革によって、和歌山県が、特定の重要な情報を隠そうとしていると言った批判は聞いたことがありません。

3.交際費と食糧費

 私は、汚職で逮捕され、辞職した前知事の後釜なのですが、それだから余計に身辺を綺麗にしておかなければいけないと色々と工夫し、自らの行動も包み隠さず「全公開」をしようとしたということは前述のとおりですが、そのために、前任の知事のしたことを勉強しました。
 その中の一つが、和歌山県知事に関する交際費はすべて公開するということでした。そのことは自らがクリーンであるということをアピールする、前知事の「売り」だったようで、あちこちで多く語っていました。当初私は、それはなかなかのもんだと思い、少しは「出歯亀」風興味も正直あって、県庁ホームページで公開されているものをよく見てみました。すると、いくら何でもこれは金額が少なすぎるではないか、ひと月にこんなに少ししか交際をしていないのかと思うようになりました。交際費と言うと、社会では、色々な目的のために誰かと会食をしたりするお金のことだと意識されています。安い料理屋さんに行ったとしても、なにがしかのお金はかかります。誰かに接待されたものを載せていないからかと思いましたが、県費を使って参加したものだけとしても異常に少ないのです。私は、自治省の役人などと違って、地方公共団体の会計処理などはあまり知識はありません。しかし、おかしいなあ、なぜだろうと思っているうちに、かつて通産省で、輸入促進地域の振興プロジェクトでお付き合いをしていた自治体の大幹部の言葉を思い出しました。「地方公共団体には特有の言葉遣いがありましてね。例えば、我々が会食をするときに支出する経費のことは、世の中一般では交際費と言うでしょう?でも地方公共団体では食糧費と言うんですよ。変な言葉ですね。」 あ!これだと思って、知事に当選して、県庁に行ってから、職員に聞いたところやっぱりそうでした。前知事が公表をせよと言っていたのは、飲み食いを表す世間一般の交際費ではなくて、地方財政用語としての「交際費」だったのです。具体的にはお付き合いのうち、飲み食いの費用と、祝電など通信に係る費用(通信費)を除いたもので、具体的に言うと、お葬式などに提供する花輪のようなものと言うものでした。それを飲み食いなどの交際はすべて公開していると、騙したのか、勝手にだまされたのかよくは分かりませんが、私も含めて、木村さんは日々の会食と言ったことまで公開しているクリーンな知事と思い込ませる材料に使っていたのです。これは欺瞞だと、情報公開制度を画期的に改革したのに、時代に逆行して情報公開度を落としたと言われて大いに怒ったというのは前に述べたとおりです。
 地方自治体にも、特有の用語や作法があります。飲み食い、接待、会食の費用を、世間一般のように交際費と呼ばず、(アバウトに言って)食糧費と言うのなどはその最たるものであると思います。もっと、世の中の常識に合わせて、言葉遣いを変えていくべきだと思いますが、どんなものでしょう。

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