部下力とボス力-ホワイトカラー消滅か①(全2回)

 私は、和歌山で、和歌山研究会と言う団体を根拠に、長く知事をやらせて下さった和歌山県の方々に対する恩返しと考えて、主として知的貢献の活動を行っています。財政的には、知事にもう出ないと決めた時後援会の貯金が少しあったので、これを節約しながら使って行けば少しは長く持つかなと思っていたのですが、大甘で、財政危機を迎えてしまいました。そこで、昨年はいろいろな方の御厚意に甘えて、かなりの会費を頂いたものですから、今の時点では財政危機は脱しています。ありがとうございました。しかし、公費は使えませんから、いい活動をして会員の皆さんに喜んで会費を納めていただけるように頑張りたいと思います。
 その活動の中身は、3つありまして、第1に、月1度、和歌山市を中心に県内各地で、素晴らしい講師をお呼びして講演会スタイルの勉強会をしています。第2に、自分の生まれた家に事務所を作ってありますので、ご希望の方とお話をする機会を設けています。第3は、このようなメッセージで、月3回ぐらいの頻度で、和歌山研究会のホームページに発表しています。自分なりに種々の時局分析をしたり、知事時代を含め行政の経験を開陳したり、自分の意見を述べたりしています。書くからにはインスタグラムとかSNSのつぶやきのような軽いものではなくて、きちんと理詰めに書こうと思っているのですぐに長くなりますが、前身は知事時代に評判の良かった「知事メッセージ」です。後任の知事さんたちはこういうものは書かないものですから、県庁時代のものも含めて、こちらにバックナンバーを全部移して、見やすいように、時系列だけではなくて項目別に整理して閲覧に供しています。また、メルマガサービスもしていまして、名刺を交換した人などに、「押し売り」のようにメルマガを送り届けたりしています。どなたでも(和歌山研究会の会員でなくても)、HPからメルマガを申し込むことも出来ます。第2の、人にお会いすることは、求められればもちろん私なりのアドバイスなども厭いませんが、県庁に口利きはしないと宣言してしまっているので、相手の方に実利はないかもしれません。
 そうなると、なんといってもメインは第1の和歌山研究会勉強会です。やるからには最高の内容のものにしようと思っていますので、講師陣は素晴らしい人にお願いして、やっていただいています。有り難いことです。どんな方がお話をして下さったかは和歌山研究会のホームページに全部記録がありますが、2026年の劈頭を飾って下さったのが冨山和彦さんです。冨山さんは、経営共創基盤機構から発展した日本共創プラットホーム(JPiX)代表取締役会長で、経済経営問題の専門家として大変有名な方ですが、多くの会社の再建も手掛け、また、言うだけではなくて、交通や観光業の企業の再建から立派な経営まで手掛けておられて、実に立派な人だと思っています。経済経営の専門家には、私の言葉ですが、「単能型」の人が多く、客観的な経済環境がたまたま適合的な時は実に魅力的な説を唱え、提案をするが、ややもしてちょっと事情が変わって来た時もやはり同じことしか言わないというタイプの方が多いのですが、冨山さんは違います。経済分析と経営戦略を「G(グローバル)とL(ローカル)」の両モデルで説いて見せた手際は実に魅力的でした。(私が受け売りするより、冨山さんの著作を直接当たって下さった方がいいと思います。)さらに、「言うだけ番長」が多い中で、自分が実際に左前になった企業を経営して見て、見事に業績を上げていることは見上げたものだと思っています。
 和歌山県でも、今回のような知的貢献のほかに、南紀白浜空港の「逆コンセッション」(民営化)に手を挙げてくれたり、ホテル浦島という巨大ホテルの経営に着手してくれている恩人の一人です。そして、名誉なことに、冨山さんは東京育ちの筑駒出身の大秀才ですが、ルーツは和歌山で、幼少の頃は和歌山でおじいさんとよく遊んだものだと言っておられます。

 さて、今回のお話は、GとLの経済からぐっと進んで、「AI革命と企業経営ーホワイトカラー消滅を成長力へー」という、またまた刺激的なものでした。
 世界における日本の所得ランキングは、一時に比べると見る影もありません。最近ではOECD諸国の中でもうんと下です。1990年代に、ようやくソ連のくびきから脱して、自由諸国の一員になった東欧諸国を、その経済の発展のために大いに応援をしようとして、通産省で様々な支援をしていたのがつい昨日のことのようなのに、そういう東欧諸国などが所得でほとんど日本以上と言うのは、何ちゅうことかと思います。正確に言うと、付加価値労働生産性が日本はOECD諸国でかなり下の方で、これが低いので、賃金も、GDPも上がらないという訳です。アベノミクス以来、日本は大きく円安ですから、ドル表示額が下がるという影響もあると思いますが、円安に振れてから結構時も経っているのに、改善がないということは、為替だけで説明はつかないというべきでしょう。為替は当然実経済に影響を及ぼし、円安なら円安でその中で生産構造を変えて付加価値を高める手はあってしかるべきですから。付加価値労働生産性は付加価値すなわち粗利を労働投入量で割ったものですから、日本が今後付加価値労働生産性を上げていくためには、どうやって粗利を上げていくかということと、労働投入量を下げていくかということになります。しかし、昔なら働きすぎの日本人が沢山いたのですが、今は人手不足の時代で、しかも「働き方改革」により、沢山の人が長時間働いているとは言いにくい状態です。だから、単純に日本人の働き過ぎを是正すればよいというのは間違いです。
 OECDの表などを眺めていますと、世界中の国でその国の人が働いている姿を思い浮かべますが、その姿と日本人の働いている姿を頭の中で比べてみると、どうしても、日本人の方が「生産性」が高そうな気がします。外国に時々いる特別優秀な人は別として、日本人の働きは、他の国の労働者に比べ、劣っているとは思えません。しからば、問題は、日本の経営体が粗利を取り損ねているか、優秀な日本人を適所に配置していないかの二つになりそうであります。粗利を稼ぐためには、儲けを生むプロフィットセンターに人材など経営資源を投入するしかないわけですから、結局はそれ以外の所に、優秀だけれど儲けには貢献していない従業員、その意味では冗員をたくさん抱えていることが問題だということになります。冨山さんのGの世界は、世界中のライバルと熾烈な競争をしているわけですから、冗員を抱えたままで競争するとすると、賃金を下げて全体のコストを下げざるを得ません。Lの世界はもっと大変で、Gの発注先からコストカットを言われるものですから、賃金は上げられないし、そうすると、低賃金の人が多いローカルな地域は消費も伸びず、もっと典型的な生活密着型のL企業もどんどんつらくなっていきます。

 アベノミクスの初期、円安で、輸出採算を持っている大企業は大いに儲かり、その従業員の給料も少しは上がりました。しかし、デフレマインドがあまりにも強固だったあの時は、儲かった輸出大企業も相変わらず発注先や下請けを締め上げていました。価格転嫁の欠如、これがアベノミクスが地方に裨益しなかった理由だと私は当時から思っていて、価格転嫁運動を唱えていましたが、あの時最も熱心に取り組んでおられたのが、当時の日商の三村会頭でした。今でこそ多くの方が当たり前のように、価格転嫁と賃上げの必要性を語っていますが、当時はそう思ってくれる人はあまりいず、アベノミクスが今一なのは第3の矢(規制緩和など経済構造改革)が不十分だという意見の人が多かったと思います。私は地方の方から、しかも、下請けや部品供給者の多い地方の産業界の庇護者としてものを見ていましたから、それは違うなあ、価格転嫁が進み始めたらいっぺんに世の中は変わるのにと歯がゆい思いを抱いていました。
 利益を出すことと並んで、付加価値労働生産性を伸ばすには、労働投入量を減らすことですが、しばらく前までは、デフレの人余りで、首切りなどしようものなら、大変なことになるので、それもなかなかできなかった時代だったと思います。しかし今や労働人口が減っていくことがとうとう顕在化して、あちこちで人で不足になっていますから、労働者の「適正配置」を実行するチャンスです。
 冨山さんは運輸や観光業の経営もやっておられますから、特に現場の人手不足は切実だということがよくお分かりです。しかし、これまでの日本人の職業として、人気の中心であったホワイトカラーの世界で今劇的な変化が起きていて、ホワイトカラーの多くの人達が不要の時代になりつつあるというのが冨山さんの分析の大変ショッキングな内容でした。コロナの流行の時に政府は在宅勤務を大いに主張しましたが、その際エッセンシャルワーカーはどうするのだという議論が多く出て、恥ずかしながら私もこの言葉を知って、よく使うようになりました。経済にとって、より本源的労働者ということです。よく本質を突いた言葉で、ホワイトカラーが職を失っても、現場の方々はむしろ人手不足になりつつあります。エッセンシャルワーカーは人手不足、ホワイトカラーはこれから大整理という訳です。

 冨山さんがこのホワイトカラーの退潮を予測する理由は、AIの発達です。ホワイトカラーの多くは、生産現場の後ろにある本社のようなところにいて、いわゆる本社機能を担っています。会社が機能するためには、最終的には社長のようなトップが意思決定をして、方針を決めて全社を動かしていかなければなりませんし、それがうまく行くと利益が上がるし、うまく行かないと損をするという構図です。うまく行かない時を筆頭に、トップは常に全責任を負わなければなりません。しかし、多くの案件は一つ一つ規模も大きく、結構複雑なので、意思決定までに多くの労力がいります。まず、案件を発掘してこなければなりません。そのためには現場の情報を集めてくる人が要ります。次に、その材料を分析し、よく検討して、トップの意思決定に至る材料を準備することが必要であります。案件が動き出しても、うまく行っているか、裏の方から現場を伺って、必要なチェックをかける人が要ります。監査監察系の人です。それに組織で勝負ですから、組織を動かす財務や経理や人事や労務や全社的な法律問題などを詰める間接分野がいります。
 こういう人が各会社にはいっぱいいて、現場で汗まみれになる職ではないので、人気の職種です。全体としては比較的高給でしょう。学歴などが高い人が結構好んで就いていると思います。こういう人たちは会社にいっぱいいて、大事な仕事なので、経験を積んだ先輩、上司がいっぱいいて、そこで栄達していくためにはその世界で経験を積んで賢くなっていかなければなりません。しかし、そういう仕事は、トップの意思決定のための材料提供であったり、それを支える組織維持のためのものですから、「決める」と言うところがないか、あっても希薄です。日本の会社は、こうした仕事を長い間やりぬいて、いい業績を上げた人がトップに認められて最後のトップになるという構図だと冨山さんは言います。すなわち、「部下」として長く会社にいて、「部下力」に秀でた人がトップになるのが日本の会社だというのです。さらに、この「部下力」はこれからの時代に会社の舵取りを決断していかなければならない「ボス力」とは違うというのが冨山さんの結論です。日本の会社には、「部下」がいっぱいいて、そういう「部下」が何十年も「部下力」を磨くことに専念していたら、いい「トップ」になる訓練をいつやるのだ、良い部下が良いトップになるとは、これからの変化の時代では限らないではないかと言うのです。まことにその通りだと思います。

②(全2回)へつづく