プロジェクトX

 この4月からNHKで18年ぶりにプロジェクトXが再開されます。この間予告編的番組があったので、見ましたが、過去の放送のエピソードなどが紹介され、あらためて、プロジェクトXはとてもいい番組であったと思いました。18年ぶりというと、終了したのが、2005年で、調べてみると、始まったのは2000年からであることが分かりました。日本の成長を支えたいろいろな方面の人々の努力を丁寧に取材して放送されていましたが、私がこの番組を好きだったのは、このような人々の努力をとてもポジティブに描いていたことです。感覚的には古き良き時代の高度経済成長の雰囲気の中にどっぷり浸かりながら、見た記憶があるので、放映されていたのが2000年代の初めだったとは少々の驚きがありました。そして、2000年代の初めでも、このような人々の努力を素直に、肯定的に描くという手法が許されていたのだなといささか感慨にふけりました。私の感覚では、プロジェクトXは、1980年代か遅くても1990年代に見ていたような思いがあるのです。この番組のエートスは、大きな目標に挑戦して多くの仲間が力を合わせてついにそれを成し遂げること、こつこつとひたむきに努力すること、会社のためであることはもちろん、その商品を使った消費者が幸せを感じ、社会や国家がそれによって繁栄するように尽くそうとしていることといったものだったと思います。最後の点は、私の好きな「自分を超えたものに尽くすのは楽しい」と言う考えにも一脈通じます。考えてみたら、この番組が作られた2000年代はバブルがはじけてはや10年、なんとなく漂い始めた閉塞感をいち早く感じた番組制作者が、日本人は過去、今よりももっとミゼラブルな状況をひたむきに努力することによって突破してきたではないか、と言うことを日本人に訴えたかったために出来た番組ではないかとも思えます。少なくとも、私はこの番組だけは必ず見ていつも感激していました。
 今度の新プロジェクトXも、タイトルに「新」が付いただけで、副タイトルの「挑戦者達」というのも一緒。番組のテーマ曲であった、中島みゆきさんの「地上の星」と「ヘッドライト・テールライト」も一緒と言うところに、私は限りない期待を抱いています。
 バブル崩壊からはや30年、プロジェクトXが世に警鐘を発したにもかかわらず、日本の国力は少なくとも相対的には大いに衰え、現在の様々な国際比較は、日本が世界のトップを張っていた面影は既になく、日本の後退を如実に示していて、言いたくもないぐらいです。ただ世界の中で単に後退が著しいと言うのなら、また、日本人がもう一度ひたむきに努力すれば再び日本の復権も期待できそうな気もしますが、さらによくないと思いますのは、世の中の、ひたむきに努力をすることを「ださい」かのように見なす風潮です。スポーツや芸能の世界では猛練習をして技を磨くと言うことはまだまだ評価されている気がしますが、勉強や仕事の世界で、必死に頑張ると言うことを蔑んだり、軽んじたりする風潮は,私はとてもいけないことだと思います。確かに、体を壊すような働き方は問題だし、合理的な方法で能率や生産性を上げるような工夫はしなければならないことは明らかですが、働き方改革などというネーミングで、ともすれば必死で働くことを時代遅れであるように言うことはいかがなものかと思います。とりわけ、一時、働き方改革が一世を風靡したとき、労働時間を少なくすることだけが正義だというような風潮がはびこり、張り切っているのは現場を摘発して回る労働局だけという時があったように思います。働き方改革は、私は、いろいろな工夫をすることによって労働の生産性を上げることだと思っていまして、和歌山県が提唱して大ブームになったワーケーションなどはその大変有効な手段の一つだと思うのですが、労働時間だけを問題にする世論と,それによって醸成されてきたひたむきに頑張ることは時代遅れだ、会社や,社会のために尽くすことはださいと言う風潮はとてもいけないことだと思います。
 でも、実はそういう風潮の中でも、そういう風潮があるから肩身の狭い思いをしながらも、ひたむきに努力をしている人達はいっぱいいると言うことを、私はよく知っています。そういう人達の努力がなければ、日本はもっとひどい国になっていただろうと思います。そこへプロジェクトXです。必死で努力している人達をどんどん拾い出して世に問うてもらいたいと思います。どうせ自分が努力したって同じ、ひたむきに社業に貢献するなんてださい、などと思っている人がこの番組を見て、感動して涙するような番組を作ってもらいたいと思います。プロジェクトXを復活させたことはNHKの大ヒットです。言っては悪いが、バラエティーばかりどうしてこんなに並べ立てて、馬鹿馬鹿しいと思う民放とは大違いです。こんなNHKなら私は視聴料を払いたい。
 その中で希望をあえて言えば、猛烈仕事人間を躊躇せず描いてもらいたい、現代の風潮に揶揄して、その人達の心意気を描くことを遠慮することは絶対にしないでもらいたい。視聴者はちゃんと自分の考えを持っているのだから、ひたむきに努力する人を堂々として描いても、視聴者を労働強化に追いやることになるなどあり得ませんから。
 新プロジェクトXに大いに期待します。また、涙腺の緩くなった私を感激させて涙涙にさせて下さい。