特定秘密保護法に思う

 先般県議会で高田由一議員が質問に入る前に次のような発言をされたので、ビックリしました。

 『先日、国会では特定秘密保護法が国民の反対や不安を押し切って強行採決されました。特定秘密は我が国の安全保障にとって著しく支障を与える恐れがあるなど広範かつ曖昧な要件で政府が指定し、何が秘密かも秘密です。
 私たちもこの県議会でオスプレイの訓練の問題などを取り上げましたが、特定秘密とされれば質問することや答弁することもできなくなるのではないでしょうか。
 議会制民主主義の根本が脅かされます。特定秘密保護法の成立に強い抗議の意思を表明するものであります。』

 さすがに、議場からは、『特定秘密とされれば質問することや答弁することもできなくなるのではないでしょうか』という下りで他の議員から「そんなことあるかい!」というヤジが飛びましたが、日本の多くの方々がこのような議論が自然に口に出てくるような理解をしているという事が私は気になります。

 マスコミの報道を見ていますと、本当にそのように、大変な秘密主義を政府が新たにとるようで、民主主義に対する警察国家、独裁国家の挑戦のように思えてくるのですが、「ほんまにそうかいな」という事を少し勉強してみました。
 その結果、次のようなことが分かりました。

1. まずこの法律で何らかの行動が制約されるのは、特定秘密を指定したり、保護したり、解除したりしなければならない官庁とその職員、防衛産業や分析企業のように特定秘密を国から提供を受けて取り扱う企業とその従業員、それに秘密を盗み出そうとする人だけですから、上記以外の人が特定秘密になっている事であろうとなかろうと、どんな議論をしても関係はありません。だから和歌山県議会でどんな議論をしても何の影響も受けません。
2. 特定秘密とは、この法律の別表に載っている防衛、外交、特定有害活動及びテロリズムの防止の4分野に限られていて、しかも、その中味がかなり限定的に列挙されています。ちなみに、その全文を巻末に付けておきます。したがって、私が前にいた経済産業省が取り扱っている経済情報などは関係ありませんし、まあ、せいぜい安全保障貿易管理とか武器技術又は防衛産業関係ぐらいかなあと思います。
 それが、一部の新聞などでは、国民生活の隅々まで秘密にされて国民が被害を受けるような例(忘れてしまいましたが)を上げて反対の雰囲気を煽っていましたが、どこからそういう話が出てくるのでしょうか。私は、マスコミの報道で、この限定列挙が報じられているのを見たことがありません。
3. もともと公務員は、様々な秘密に接します。このため、公務員法で守秘義務がかかっていまして、これを漏らすと処罰されたりして、大変な不利益を被るのです。しかし、何が秘密で何が秘密でないのかということは結構判断が難しく、あんまり客観的なルールや統一的な手続きがないので、担当の官僚が自分たちの判断で、取扱注意とか「秘」とか「極秘」とかの扱いを決めているのです。最近は各省でもう少し統一的に扱いを決めようとしていますが、やはり、それぞれの役所限りです。したがって、限定4項目ではありますが、今回の法による手続きの方が、より手続きが厳格化、定型化されている結果、世に言われる官僚によるところの勝手な情報隠しから遠いことになると私には思われるのです。しかし、これまた、報道は官僚による情報隠しになるぞの一点張りです。
4. 実は、今回の法で決定的にこれまでと違う所は不正な行為で公務員から情報を盗もうと思った者を罰しようとしている所です。法第二十四条は次のように書いています。

第二十四条 外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前二項の規定は、刑法その他の罰則の適用を妨げない。

 漏らした公務員は、公務員法で元々罰せられるのですが、今までは、漏らさせた人にはお咎めがありませんでした。すなわち日本は、スパイには天国のような国だったのです。私は、他はどうでもよいのですが、この点だけは、この法が絶対に必要な理由だと思います。それでも思想信条の自由な民主主義の国日本らしく、スパイと言えども、公務員の正義感に訴えたり、自国の思想や立場を訴えて同情に至らせて特定秘密を盗んだ者は無罪放免です。国家の安全保障という観点からは少しルーズすぎるかもしれません。

 多分この点は、報道の自由、取材の自由という観点から、報道機関や評論家のような人が問題視したのでしょう。しかし、いくら、真実を報道するためとは言え、法律にあるような不正な方法で情報を入手して良いのでしょうか。しかも国家の安全保障に係る限定された秘密を。実は、報道サイドからの批判を防じるためでしょうか、本法案は国会審議の過程で修正されています。不正な方法で特定秘密を取得したら加罰という事だけでよいのに、わざわざ『外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、』という限定をつけているのです。すなわち、外国のスパイとお金儲け目的とテロ以外は、どんな不正な情報入手をしても罰を受けないという事になってしまったのです。私はこれもやり過ぎだと思います。例え、真実を国民に報道するという大義目的があろうとも、法に書かれているような不正な手段を弄して情報を入手していいのでしょうか。
 昔毎日新聞N記者事件というのがありました。私は報道をしたいという記者の情熱は批判しませんが、もし、始めから利用する目的でこの記者が外務省女性職員に近づいたとしたら、その行為は報道の自由という大義名分では消せない許せないことだと思います。(ただ、この記者と女性職員との関係がどういうものであったかの真実は色々と見方があるようです。)

 私の理解は大筋以上のようなものですが、長い間役人をやっていて、法案作成もいくつかやらせてもらった私からすると、この法はちょっと変だなと思うところもあります。
それは、以上述べた加罰の限定のかけ過ぎに加え、次のような点です。

① この法律の大事なところは、前述のように第24条のスパイ等への処罰規定であるとすれば、本則に何も規範を述べないで、いきなり罰則の章でそれが出てくるという事は、あんまりエレガントとは言えません。本則で不正な事をして盗んではいけません、また、その前提として特定秘密は漏らしてはいけませんと書くべきではないでしょうか。こういう正々堂々の意思表明が、国民にこの法律を正しく理解してもらえることにつながると私は思います。あるいは、法律的にはエレガントではないかもしれませんが、公務員法の加罰を前提にして情報を盗みに行った人だけを加罰とするという単純な法律でもよかったという気がします。
② 法律では、特定秘密を取り扱う公務員と提供を受ける企業の従業員へのいわゆる「身体検査」が長々と書かれていますが、私は日本の公務員については怪しいと思う職員は、特定秘密を取り扱うような職に就けなければよいし、現にそうなっていると思うので、不要だと思います。余計な検査のための様式行為が増えるだけだと思うからです。想像ですが、こういう条項は多分米国の受け売りではないでしょうか。米国は、上級の公務員はほとんど政治任命のいわば臨時雇いですし、下の方の公務員もあまり終身雇用的ではないので、怪しい人をチェックするにはいちいち厳格な身体検査がいると思うのですが、一旦何かあるとすべてを失う我が国の公務員の場合は必要ないと思います。一方、特定秘密を受託で受け取る民間企業の従業員については、その都度対象者が変わるのだからひょっとすると一部必要かもしれませんが、もう少し簡素な手続きでよいのではないかという気がします。
③ また、この法律の説明資料などに、米国などから情報をもらう時にこの法律が必要なんだとやたらと強調している所が気に入りません。日本は日本なんですから、日本のために安全保障情報が盗まれること自体がいけないのです。
 以上のような問題はあると思いますが、私はやはりスパイをやっつける法律はいるのではないかという点を阻却するような問題とは思えません。

 本件に関する限り、私の感じからすると、その報道ぶりとそれによって生じていると言われている「世論」は少しオーバーではないかと思います。
 重ねて言いますが、私のざっとした記憶では、マスコミの報道で、秘密が限定4項目に限られるという事と、今までとうんとちがう事はスパイや不正情報盗人を処罰できるようになった事だという事と、それも外国スパイとお金儲けとテロの目的で不正な方法で入手するに限るという事の3点を報じた記事、ニュースは見たことがありません。

 だから、高田議員のような発言が出てくるのではないでしょうか。先の戦争の頃我々は、新聞報道などで「大本営発表」を流され、人心を軍国主義、戦争礼讃に向かわされました。今また我々は別の角度からの「大本営発表」にさらされてはいないでしょうか。そういう時には「ほんまかいな」と言って大勢とは別の意見をつべこべ言ったりする人は、迫害されるのですが、でも、日本国民すべてがいつも「ほんまかいな」という気持ちでいる事が大事だと私は思います。

 本問題は県政とは直接関係ない事ですので、県の行政メディアで流すのははばかられますが、後援会はメンバーの方々と何でも意思疎通を図るものですから載せさせていただきました。

【別表】(第三条、第五条―第九条関係)
一 防衛に関する事項
 イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積もり若しくは計画若しくは研究
 ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
 ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ニ 防衛力の整備に関する見積もり若しくは計画又は研究
 ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む)の種類又は数量
 ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
 ト 防衛の用に供する暗号
 チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階の        ものの仕様、性能又は使用方法
 リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
 ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途

二 外交に関する事項
 イ 安全保障に関する外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容
 ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又 はその方針
 ハ 安全保障に関し収集した条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報        その他の重要な情報
 ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号

三 特定有害活動の防止に関する事項
 イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(特定有害活動の防止)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
 ロ 特定有害活動の防止に関し収集した外国の政府又は国際機関からの情報その他の重要な情報
 ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号

四 テロリズムの防止に関する事項
 イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(テロリズムの防止)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
 ロ テロリズムの防止に関し収集した外国の政府又は国際機関からの情報その他の重要な情報
 ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
 ニ テロリズムの防止の用に供する暗号