豊洲問題に思う

 小池百合子東京都知事が誕生し、連日マスコミでその活躍ぶりが報じられています。その中で豊洲市場への移転問題など、大変な問題が明らかになって、これはどういうことだと国民のほとんどの人が思っておられることと思います。色々と大変な事が多い和歌山から見ると、放っといても人が集まり、財政も交付税をいただく必要もないほど豊かな東京では何の心配もないと思っていたら、東京でも色々問題があるんだなあと分かった次第です。

 この豊洲問題について、9月28日に小池知事が行った所信表明の中で、小池知事は「『聞いていなかった』『知らなかった』と歴代の当事者たちがテレビカメラに答える姿に、多くの都民は嘆息をもらしたことでありましょう。」と指摘した上、こう述べています。
 「この失った信頼を回復するためには、想像を超える時間と努力が必要であります。責任の所在を明らかにする。誰が、いつ、どこで、何を決めたのか。何を隠したのか。原因を探求する義務が、私たちにはあります。」

 この中で、私は、「誰が、いつ、どこで、何を」(決めたのか)が大事だと思います。東京都のような大きい組織で行われることは、「都では」と理解される事が、実は誰が実際に決めたのかが曖昧にされるままに、それが唯一無二の意思決定であったり、真理であるかのように流布することが多いのではないかと思います。

 しかし、実際は誰か特定の人が決めているのです。決めた人は責任を取らねばなりません。少なくとも説明責任を果たさなければなりません。その際、ものすごく多く発生する事が、誰かのせいにして、説明しようとすることです。決めようとする人、意見のある人は、ちゃんと自分の責任で理由を述べて説明をしなければなりません。私は知事にならせていただいた時、県庁の職員の話を聞いた時あまりにも多くのそういう例を経験しました。例えば県の出す法規が正しく書かれているかを審査して、自分でおかしいなあと思うことがあり、そう指摘すると「それは(法令審査を司る)総務学事課の審査を経ています」と言って済まそうとするのです。総務学事課(現:総務課)の担当もジョブ・ローテーションでたまたま任命された、さほどこの方面のスキルのない人が通例でした。この分野のトップには、総務省の優秀な人に来てもらっており、こういう人はごく若い時から、嫌というほど法令事務を叩き込まれているのですが、普段は、個別の案件の法令の審査などは、トップに上げることはないようで、さほど知識と訓練のない人により「総務学事課」のレッテルが押されて、それが天下御免の札として通用していたのです。

 また、ある時は、県庁の意思決定が「国がこう言っています」「国からの指示です」という言葉で決まってしまうこともありました。私は、おかしいなあと思う時は、「その国というのは具体的に誰なのかね」と「何故にそうだとその国を名乗っている人は言っているのかね」の2つの質問をする事にしています。国も通常は論理的に仕事をしているので、県に指導をする時は、それなりの理屈があるはずなのです。それを聞けば、「なるほど分かりました。ではそうしよう」と思う時や「なるほど、理屈は分かったが、それなら余計、この指示は理屈に合わないのではないか」と疑ってみたくなる時などが出てきます。しかし、実際には、私の先の2つの問に答えられない場合が大部分です。そういう時は、ちゃんとした答を聞いてくるようにと案件を差し戻しています。また自分で「ほんまかね」と国の本当の責任者に聞いてみることもあります。
 そんな話の典型が私の就任直後経験した「コムスン事件」でした。長くなりますので省略しますが、要はコムスンが業の取消処分を免れようと事業承継で別の会社の名義にしたので、もはや手は出せないと厚生労働省の多分下の方の役人が勝手に判断し、「国の見解」だと県に伝え、おまけに驚くべきことに時の厚生労働大臣や官房長官までそう教えられたのか、それをおうむ返しに記者会見で述べたという事例でした。「国」からの指令を県庁の担当部局から伝えられた私は、「そんな馬鹿な話はあるか。それは脱法行為ではないか。脱法行為を認めていては法秩序などもたない。だから、脱法行為をしようとする奴は普通は倍返しでやっつけないといけないのに。」と述べ、その直後の記者会見で、そのまま語るとともに、「正義に反する者は少なくとも和歌山では絶対許さん」と言ったのですが、それがすぐマスコミを通じて全国に流れたと思ったら、その日の夕方、厚生労働省の担当局長が記者会見を開き「コムスンが事業継承で処罰を免れようとしても許さない」と発表した事で結着したのでした。

 都や県はもちろん、あらゆる組織といえども、元を正せば個々の人から成り立っています。したがって安易に組織の名に隠れることなく、個々の人が扱っている案件に責任を持って当たることが必要でしょう。
 10月1日の新聞報道では、都の調査でも、誰が決めたかは特定できないそうです。したがって、誰が決めたか、誰の意見か、誰の責任か、が少なくとも透明で分かるような組織のチェック体制を作っておくことも必要であろうかと思います。

 こういう話は国や都庁や県庁といった行政だけの話かと思いましたら、どこででも起こります。最近も和歌山商工会議所にある中小企業再生支援協議会で、そっくりだなあと思うような事が起こりました。中小企業再生支援協議会は過去には再生を仕上げた実績もあり、また立派な商工会議所のことですから、その自浄作用に期待したいと思います。

 組織の裏に隠れる事はやめましょう。
 堂々と理屈を述べ合って議論しましょう。
 他の権威を借りて思考停止したり、人を押さえつけたりすることはやめましょう。
 名を名乗れ、いざ尋常に勝負勝負。