西山チョータローさんの言葉

 私の趣味である蝶の世界でとてもえらいと思っている人に、西山チョータロー(本名保典さん)さんという人がいます。
 私より数才年上ですが、幼少のみぎりより、蝶の世界に造詣が深く、日本でも世界中でも、人がとても採れないという蝶を採ってきて、私が大学1年生になった頃には、既に伝説の人でした。蝶を採る能力もすごく、御自身は一種の露悪家なので、「俺の通った後はモンシロチョウ一匹飛ばない(全部採り尽くすので。)」と豪語したりするのです。
 当時発刊されたばかりの昆虫雑誌で、数多くの採集記を書き、私などは西山さんの足跡をたどることで、その何分の1、何十分の1もの成果を挙げてきたものです。ちょうど私が大学に入るちょっと前まで、東京~京浜地方には、京浜昆虫同好会という、これまで日本の蝶研究史上にさんぜんと輝く愛好家のグループがいたのですが、西山さんは、その再若手の会員でありました。その同好会の会誌は、図版のない字ばかりの印刷物であったので、麻雀にちなんで「字一色=TSUISO」といったのですが、西山さんは、蝶にのめり込み、とうとう就職もせず、昆虫標本や用具などを扱う専門家となり、このTSUISOを復刊してしまいました。
 私などその初期からの愛読者なのですが、西山さんは世界中を股に掛け、何ものにもとらわれない自由自在の発想をする人なもので、書いたものはこの上もなくおもしろいのです。昆虫採集は、自然に親しみつつ、「あれ!この虫とこの虫は違う」という所から出発し、自分で生物を観察して、自分で違いを発見していくという趣味ですから、いつもほんまかいなとものを見ているわけです。したがって西山さんのものを見る眼は、識者や権威を認められた人がどう言おうと、それに流されない強さがあります。そんな西山さんですから、マスコミがじゃんじゃん流すその時々の「風」に沿った世論なるものには我慢できないことがあるのでしょう。だから、するどい警句を、TSUISO誌上ではよく書いています。それもアイロニーという良質の知識人だけが理解しうるセンスをよく分かっている人らしく、そういう放言をする欄の名前は「おどしぶみ」というのです。これはオトシブミというゾウムシの仲間の甲虫(葉をまるめて卵を生みつけて地上に落とした姿が、昔の丸く巻いた手紙みたいに見えることからこの名があります。)と脅す、驚かせるということをかけた言葉で、これ自体が、西山さんのユーモアとアイロニーの表れだと思います。毎回楽しみにしているそのTSUISOの「おどしぶみ」に次のような文章がありました。怪人にして変人、天才にして奇人の西山さんらしい文章です。

おどしぶみ【編集後記】
 ミサゴと言う鳥がいる。空中でホバリングして、急降下して、水面をつきぬけ、魚を獲るタカの一種だ。 別名魚鷹と云う。
 ミサゴのことを アメリカではオスプレイという。Osprey。そう、あのヘリコプターと飛行機のあいのこみたいな奴の愛称だ。
 ヘリコプターに比べて とても安全で事故率が低い。その上、ヘリコプターに比べて高速で飛ぶ。ほぼ倍の速さで、560k/hだ。ヘリコプターに比べて長い航続距離をもち、空中給油だって出来る。ヘリコプターの何倍も飛べるのだ。
 安全で、高性能のオスプレイを反対している人達がいる。どうして反対かというと、中国がオスプレイを持っていないから。日本にオスプレイがあって、軍事的に優位にたつことが困る人、あるいは、中国から反対運動に支援金をもらっている人達が どうやら デモをしているらしい。
 ベトナム戦争の映画をみていると、ロシアのヘリコプターとアメリカのヘリコプターが さかんに飛びまわっていた。作戦にも、救援にも、ヘリコプターは 局地戦には大活躍なのだ。その ヘリコプターより倍も速く飛び、何倍も遠くに飛べるのだったらオスプレイの価値は高い。しかも、ヘリコプターより事故率が低いのだ。
 戦争はもちろんしないのが良い。さらに、負ける戦争はさらには良くない。戦争はしないのが一番だ。
 戦争反対は、駅前でいわれなくとも、ボクもしてほしくない。しかし、オスプレイの配備反対は戦争反対と一緒ではない。ヘリコプターも飛行機も反対というのならスジはとおっているけれど、どこかおかしい。それを一般の人もマスコミも言わないことがおかしい。
 自衛隊も、オスプレイを配備して、非常時には、オスプレイで救援にかけつけないといかん