『超一極集中社会 アメリカの暴走』 

 最近の本には、人目を引く、少々えげつないようなタイトルを付けた本が目立ちます。出版不況で何とか本を売ってやろうという出版社の魂胆がよく出ていると思います。 
 この本が出たのは、ちょうどトランプ大統領が登場した時ですから、この本のタイトルはトランプさんのアメリカがこれから無茶苦茶をし始めるという事を書いた本かなあということを連想させますが、ほとんどの部分はそうではありません。
 私はこの本を新聞の広告で見て、タイトルではなくて著者の名前で買いました。著者の小林由美さんは、私の1学年下の東大経済学部の卒業で、私の記憶が間違っていなければ、太田房江さんと小宮隆太郎先生のゼミで同窓ではなかったかと思います。ひょんな事で、私は彼女とドライブで富士五湖に行ったことがあります。というと思わせぶりですが、私はまったくあやしくありません。通産省に入ったばかりの頃、同期のI君に頼まれて、彼と小林さんがドライブするのに付いて行ったのです。何故2人で行かなかったのかは、未だ不明です。その後、またしても小林さんが私の前に現れます。妻の妹の夫のいとこMさんの結婚式に呼ばれましたが、その新婦さんが小林さんでした。その後お二人は別れ、Mさんは大活躍で、本当に立派な仕事をしておられますが、小林さんはどうしたのだろうと思っていたら、本の著者として現れたのです。
 本の著者の名で買った本ですが、内容は素晴らしいものであると私は思います。アメリカの経済の現状を大変印象的に語ってくれていました。
 富が超上位の人だけに集中しており、下位90%の資産は逆に減り続けていること。リーダーになるための教育費はものすごい高額になっていること。だめになったと言われる製造業でも、ICT技術により大変な地殻変動が起こって復活をしていること。金融機関における勝者の1人勝ちの実態。シリコンバレーの最近の姿、情報革命が新しいビジネスモデルを呼んで旧産業と人間を駆逐しつつある話。……
 このような一極集中社会がアメリカの社会を破壊するということ、そのビッグウエーブの中で日本は、我々はどうして生きのびていったらよいか。そのような話が、極めて実証的に語られています。さすが、あれからずっとアメリカにいて、第1線のビジネスの社会で活躍してきた人の仕事と私は思いました。
 本のタイトルはともかく、この手の本の中では最も包括的かつ実証的ないい本だと思いますので、皆さん是非お読み下さい。

 その上で反省ですが、私も経済産業省の仕事から離れて13年余。和歌山県庁に、現在の社会情勢の上に立脚した経済合理性に則った行政を持ち込んで頑張っているつもりですが、その世界情勢がまたまたどんどん変化していっておるなあという事を、もちろんその多くは目や耳にした事はあるものの、さらに多く知らされました。知事として県政の誤りなきを期するためには、さらに勉強をし続けなければならないなあと思いました。