「夜明け前 増山としかずストーリー」を読んで

 大下英治さんが得意の速書きで書かれた増山壽一さんの伝記であります。最近増山さんから送って下さったので、関空へ行く自動車の中で読みましたが、大いに感ずるところがありました。
 増山さんは、昭和60年通商産業省に入省組の一人で、通産省で数々の仕事で大活躍をし、北海道経済産業局長、中小企業振興機構理事を最後に退官し、平成28年の参議院議員選挙に全国区から立候補して落選、現在は政治家を目指しておそらく再び何らかの形で立候補しようとしているのではないかという人でありますが、その景気づけに大下さんが伝記を書いて下さったのではないかと私は思っています。
 通産省60年組の採用担当職員は、現在岐阜県知事の古田肇さんが主席で、私が次席というコンビでした。古田さんの人間的魅力と作戦もあり、有望な学生さんをごっそり採用することができた年だと思っていまして、皆、各方面で大活躍をしています。採用担当の私が、「わー、こいつは賢い!」とうなるような若者が一杯いて、通産省に入ってくれました。その中の一人が増山さんです。増山さんも、そういった一人で、頭はものすごく良くて、明るくて、猛烈な早口でよくしゃべり、しゃべりすぎておっちょこちょいに見えて、実は、笑顔の奥の深いところで、有り余る人の情けと先を読む類い希な智力を持った人であると感じました。もちろん他省も放っとかないので、大蔵省も大いに狙いに来て、いろいろなところで争奪戦が繰り広げられたのであります。その大蔵省の総帥は後に国税庁長官をされた尾原榮夫さんで、和歌山県の財政課長も務められたので、和歌山県にも知り合いが多い、とても魅力的な方でした。争奪戦の一端は、この本の中にも書かれていますが、私が読んでみて、そんなことあったかなという点もあるのですが、遠からずという気もして、そんなものだったのかも知れません。
 私がここで言いたいのは、私がこの本を読んで、増山さんの役人生活を振り返る時、ものすごく特徴的なことがあることです。それは、彼がどんなポストについても、そこで様々な工夫をして、通常だったら、不可能だとされて、何もなく終わってしまうことを実現してしまうことであります。さらに工夫の前提としては、どうしてそれを実現してやろうか、必死で考えていることであります。
 工夫をして、状況を切り拓くこと。考えてみれば、公務員はもちろん、職業人として、あるいは職業以外の事についても、人間にとってそれは、とても大切な事ではないかと思います。昔、通商産業省は、通常残業省と言われ、ばかみたいに張り切って働き、他の省の領域まで国のためだと言って口を出してはインベーダーと言われ、上司であろうと政治家であろうとどんどん直言して下克上と言われた処でした。今はどうか知らないけれど、この工夫をして国のために状況を切り拓いていくことだけは、いつの時代でも大事にしてほしいと思います。

 和歌山県庁には約4000人の俊秀がいます。このような職員が一人一人、増山さんみたいに、考えて、工夫して、もがいて、状況を切り拓いていってくれたら、和歌山県民は大喜びだと思います。

 増山さんがどう工夫したか、そのノウハウがいっぱいつまっているこの本は何故か非売品であります。増山さんに言ったらいっぱいくれると思うけれど、多分それは、彼の目的には合わないでしょう。是非勉強をしたいという人は、私に言っていただいたらお貸しします。