響け カーネギーホールに交響曲「友情」

 11月29日、ニューヨークの音楽の殿堂カーネギーホールで和歌山県の実業家向山精二さんが、日本とトルコの友好をテーマにした、自作の交響曲「友情」を上演しました。
 これは、トルコと和歌山県、トルコと日本の感動的な友情のお話をテーマにしたもので、向山さんが交響楽団を自費で雇い、カーネギーホールを借り切って、ニューヨークの方々を無料で招待し、自ら指揮をして上演したものであります。これまで、日本やトルコ、イタリアなどで上演活動を行ってきたのですが、アメリカでの上演は最初となるわけです。
 1890年オスマントルコの軍艦エルトゥールル号は、台風のさ中和歌山県の串本の大島の沿岸で座礁沈没します。トルコ海軍の次代を担うべき兵学校の見習士官500名を含む約600人の乗員が命を落としました。当時トルコは西洋列強に押され、昔日の栄誉を取り戻すためには、東に勃興中の日本と組むしかないと、エルトゥールル号を将来のトルコを支える見習士官とともに日本に派遣したのであります。ところが、その虎の子のエルトゥールル号が、多くの将兵とともに海の藻屑と消えてしまったわけで、トルコ国民の嘆きはいかばかりであったでしょう。
 ところが、その時大荒れの海をものともせず、串本の人々が、献身的な救助活動をして69名の将兵の命を助け、けが人の手当てをしました。当時のことですから、自分達の食料にも事欠く中で、ありったけの食料や衣類を傷ついた将兵に提供したと言います。トルコの人々の感激はいかばかりであったでしょう。トルコという国、そしてトルコの人々が偉いのは、その後今日まで130年近くになんなんとする間、このことをトルコの教科書に書いて下さり、子供達に串本の人々、そして日本に被った恩義を教え続けてくれたということであります。
 日本とトルコの友情はここに始まっています。そして、この事件から95年が過ぎた1985年イラン、イラク戦争の真最中のテヘランで、テヘランに取り残された日本人を救出するために、2機のトルコ航空機が、撃墜予告時間すれすれのタイミングでイスタンブールからテヘランに飛んできてくれて、日本人をそっくり救出してくれました。エルトゥールル号事件以来の友人の国日本人を救おうという大統領の呼びかけに、トルコ航空の会社も、乗員も皆進んで協力してくれたそうです。我々日本人は、今度はこの恩義を終生忘れないようにしないといけません。
 この2つの事件を風化させないように、そして、それらに伴う人々の犠牲的精神と人間愛を讃えて、田中光敏監督の「海難1890」という映画が日本とトルコの官民を挙げての支援のもとに出来ました。感動の涙なしには見られない映画です。
 そして向山さんの交響曲「友情」です。音楽に加えて、舞台中央のスクリーンには、エルトゥールル号物語やテヘラン事件の物語がよくわかるように映し出され、耳だけでなく、目からもよくこの音楽が味わえるようになっています。

 向山さんの交響曲「友情」が演奏されたこの日のカーネギーホールは、観客数が今年一番の記録だったそうで、そのように大勢のアメリカ人やニューヨーク在住の人々が、この曲を通じてあの感動的な2つの物語を思い出していただければ、それは素晴らしいことだと思います。

 向山さん本当にありがとうございました。
 これらの功績により、向山さんは、本年日本政府から旭日双光章を授かり、和歌山県では来年1月31日に挙行される和歌山県文化賞表彰式において、文化功労賞を受けていただきます。