和歌山県にロケット打ち上げ射場決定

 3月26日、かねてから小型ロケット打ち上げ射場を選定していたスペースワン(株)の太田信一郎社長が来県され、「和歌山県を小型ロケットの打ち上げ射場建設予定地として選定した」との意向を伝えて下さり、この後、和歌山県正庁において太田社長と私の2人と田嶋勝正串本町長及び堀順一郎那智勝浦町長の4人で進出協定書へのサインをするとともに、記者会見に臨みました。

 スペースワン社は、キャノン電子、IHIエアロスペース、清水建設及び日本政策投資銀行の4社が出資するプロジェクト会社で、これから爆発的に増えてくる超小型衛星の打ち上げ需要に適確に応じるために、そのための小型ロケットの発射場を数年前から秘かに探していたのです。
 担当の方が全国くまなく歩き、各都道府県にも情報提供を求め、適地を探す中で、串本町の荒船海岸の一つの谷がそれに最もふさわしいという分析に達し、我々に秘かに打診がありました。何故にここがいいかと言うと、赤道になるだけ近い南の地であることと、その南に向けて開いていて、前面に障害となる遮蔽物がないことと、反面様々な機械を運ぶための交通手段があること、さらには地元の協力を得られることが挙げられます。スペースワン社の前身の会社の専門家が目をつけたこの地はまさに、この点にぴったりであるわけです。しかし、当該地は、民有地も多く、現に数少ないとは言え、人が住んでいる地でありますので、円満に土地を譲って下さるかどうかが最初の関門になります。また串本町や一部用地がかかる那智勝浦町の協力が得られることや、実際に打ち上げの時は危険防止のため、漁を休んでもらわなければならなくなる漁業関係者の方々との話し合いや事業実施について合意なども必要になります。
 それらがすべて合意に達しない前に、情報をかぎつけた業者などが入ってきて、法外に高く土地を買えなどと言い出すと、昨今は、会社が逃げてしまって、プロジェクトがおじゃんといった事がよく起こりますから、物事は慎重に行わないといけません。それに、いくらよいことでも地元の方の感情を傷付けるような結果になってはいけません。
 したがって、会社も我々県も両町も細心の注意を払って、静かに、着々と事を進めました。

 また、会社は、すべて、巨大な親会社が出資したプロジェクト会社ですが、だからといって、出資を無尽蔵に仰ぐわけにもいきませんし、商売がうまく行って打ち上げサービスの顧客からの入金があるまでの間の資金繰りをどう扱うかという事が問題になります。そこで、会社からの要請を受けて、県から無利子融資をして、初期費用に充当してもらおうということになりました。実は和歌山県はかねてから、制度として「わかやま版PFI」制度を持っていました。これは、事業会社が事業の遂行は確実だけれど、事業用の土地や設備の入手をするために当初資金需要が発生する場合や、土地の入手のための立ち退き交渉などが不得手の場合、県があらかじめそれを用意提供して、事業会社が事業を開始し、収入を得られるようになったら、その収入の中から返してもらおうという制度で、実は世の中のPFIとは、官、民の関係が逆になっているので、通称「逆PFI」と呼んでいるものです。普通のPFIは、資力がなくて、起債余力もないような地方公共団体が、将来料金収入のありそうな公共サービスを民間企業に施設を造って運用してもらい、県民、市民から得られる公共料金をもって、資金返還に充てようとするものですから、貸し借りが逆になるわけです。和歌山県は起債もできないくらい財政が弱いわけではありませんので、本当に必要な公共施設は自分で建てることができますから、この普通のPFIは必要とはしませんが、雇用や所得を増やすための民間の投資を呼び込むための手段として、逆PFIはあり得るなあと私が考え制度化してあったものです。これは、リスクマネーを貸すというものではありませんので、ちゃんと返してもらわなければなりません。事業には某かのリスクがつきものですが、どんな場合が生じても県として耐えがたい損失を被ることがないように、慎重にスキームを点検して、このための予算措置を県議会に諮って用意しておいていたのです。3月26日、私から太田社長に対し、この資金貸し付けを承諾する旨言明させてもらいました。

 本件は非常に夢のある話で、当県にとっては大変明るいニュースであります。スペースワン社は、早速この4月からも射場建設に着手することになっていて、2021年度に第1発目の打ち上げを予定しています。和歌山県の計算によるとこのプロジェクトによる経済効果は10年間で670億円になりますが、私はもっと大きいかもしれないと思っています。2020年代半ばには年間20機の打ち上げを目指すことになっていますので、打ち上げの時に毎回多くの機材も動くし、人も大勢来てくれます。それ以外の時も常時数十名の方々が近傍に詰めてロケットの組立、衛星の装着、様々な手続き、必要な調査研究ロケットや衛星のコントロール制御などをしてくれることになります。何せ分野が分野ですから、世界的なレベルの技術者、科学者が集まってきてくれるでしょう。そのかなりの人々が地元に住んでくれることになるでしょう。そのための関連産業が栄えることになるでしょう。また、昨今どこに行ってもロケット打ち上げを見物に来られる観光客の方々が大勢詰めかけてくれます。近くの適当な見物スペースが出来、そのための宿泊需要や旅客送迎サービス、飲食業なども栄えるでしょう。一部の人々は海上からこの打ち上げを見物することもできるようになり、漁業者などの新しいサービスへの展望も開けるでしょう。
 折から、遅れていた紀伊半島一周高速道路の全線事業化が国土交通省によって行われました。私は2025年の万博まで是非これら高速道路の完成をお願いしたいと一生懸命各般に要望をしているところです。また南紀白浜空港が民営化され便数も増えるでしょうから、この地域へのアクセスも便利になります。既に民営化の主、南紀白浜エアポートによって、空港とこのロケット射場地域を結ぶバス路線の実現も近くなっています。これら交通の利便性向上は、このロケット射場の一層の発展と見物の観光客の増加に拍車をかけてくれるものと期待します。

 さらに、このロケット打ち上げ射場の建設は、スペースワン社の和歌山への立地という、和歌山県にとっての意義に留まらぬ、オール日本としての快挙なのであります。衛星技術の進歩とそれを利用するサイドのニーズと技術の進歩によって、世界の衛星事業は、国が運営する大型ロケットによる国防、科学研究、大規模システム運営という流れと、民間企業が運営する小型ロケットによる小型衛星を使った幅広い分野での地球観測と、通信放送媒介という流れに二極分化されていきます。そして後者のビジネスは始まったばかりで、世界でもこの手のサービスを始めている社はごくわずか、これから爆発する世界中の衛星打ち上げニーズをどの射場が取るかという大競争が始まるのです。従って事業が遅れて、もたもたしていると、外国の打ち上げ会社ががっちり受注してしまって、あっという間に差を付けられるし、こちらが先行すれば、世界中の受注をいただけて、日本が大変な国際競争力を持ちうるということにもなるわけです。だからこそ、会社は、事業の進捗を急ぎたかったし、それを分かっている和歌山県が全力を上げてバックアップしてきたわけです。
 昨今圧倒的な強みを持っていた日本の産業の国際競争力が次々と失われている中にあって、久しぶりにそれを取り返して世界に覇を唱えるチャンスが回ってきているのです。この和歌山から。