新型コロナウイルス感染症対策(その24)-大阪が心配だ-

 5月7日から政府の緊急事態宣言が全都道府県を対象に5月31日まで延長されましたが、その際感染が顕著な特定警戒都道府県以外の県は、それぞれの事情で少し緊急事態措置を緩めてもよろしいという意思も示され、各県がそれぞれに緩めたり、緩めなかったりの発表がありました。(本当は、措置の内容は国の対処方針というフワッとしたものを参考に各県の知事が独自に決められることにもともとなっているのですが。)

 和歌山県は5月1日から新規患者はいませんが、まだまだ感染の再発が怖いので、大宗従来どおりの措置を継続することにしました。一言で言うと、県民の皆様に自粛をしていただくのと、うつりやすそうな三密施設の営業自粛と、コロナが流行っている大阪などの県外の方に来ていただくのをご遠慮いただこうという3本柱です。
 それでも大阪府が自粛解除についての出口基準を作って5月15日で一度チェックを入れてみるということだったので、和歌山県も、一応そこでミシン目を入れて、状況を確認してみようかということにしました。
 5月5日、大阪府がこの出口基準を発表され、政府がこのような数値基準を出せないでいるものですから、吉村知事の快挙という扱いで、マスコミが報じました。
 国民もコロナは怖いけれど自粛もいつまで続くのかという気持ちが高まっていた時でしたから、「府民の人々に、こうなると自粛が解けるんだという前途に希望を与えるのだ」という吉村知事の言葉は人々の共感を呼んだものと思います。

 私は時々吉村知事にもお願いしたり、差し出がましい提案をしたり、お話をしますが、実にいい人で、よく分かって下さり、仕事に真摯に取り組んでいることがよく分かる人であると思っています。
 それに出口を数値で示しておくという考えは、実はリスク0を目指さないで、それを相対化して考えるという思想に立ったものですから、今までの日本になかった(米国などで例えば原発の安全規制の時などに多用される)考えで、極めて斬新なものだと思います。私は考えそのものはいいのではないかと思います。もっとも、今はすべてのマスコミが褒めそやしていますが、この考えはある程度コロナが発生していてもかまわない、ある程度なら、もう自粛などしないで、コロナと付き合っていこうという考えですから、いざ発動という事になると、コロナがまだ危ういのに、府民の命をどうしてくれるのだという意見がわっと高まって、吉村知事も大変だろうなと予想をします。しかし、知事の発言を聞いていると、それはちゃんと予見した上で腹をくくっているのだろうと私は推察しています。

 その大阪の出口基準は以下の通りです。
 1新規陽性者における感染経路不明者数・・・10人未満
 2確定診断検査における陽性率・・・7%未満
 3患者受入重症病床使用率・・・60%未満

 私は、感染経路不明者が10人未満ではなくて、少なくとも感染者が10人未満か、本当は平均5人未満ぐらいにしたらいいのにと思いますが、こういう数値基準の考えは理解できます。

 しかし、本当に大事なことは、この3つの数字では測れないものすごい危うい事態が大阪にあるので、そのことを解決しない上での、この数値基準というのは大変危険であるということです。
 まず、重症者ベッドは随分空いているといっても、それは感染者全員を入院させることが出来ている時に言いうる事で、大阪府は、HPで確認したところ、軽症者又は無症状陽性者が数百人も自宅又はホテルで療養中なのであります。ホテルなら、まだ監視の目が行き届くし、個室だから隔離が大体できているといってもいいかもしれないが、自宅で療養又は当分待機という状態なら、TVで前にやっていたアナウンサーの赤江珠緒さんのお宅のように家族にうつすし、彼女のようにきちんと行動している人でなければ、周囲の人々にうつしまくる恐れもあります。そういうリスクの中で、人々の行動を自由にしたら、またひどいことになるかもしれません。
 したがって、重症病床使用率60%未満といっても、患者全体をちゃんと収容した上で使用率を云々するのならともかく、患者を入院隔離させられない状態で、ウイルスを世の中にばらまきながら、この手の基準が使われるのは、本当に危ういと思います。

 次に陽性率7%未満ということで、この手の指標を基準とすることは、合理性があると思います。しかし、大阪府では確かめたところ患者さんが多いので、PCR検査の手がとても回らないでいます。濃厚接触者でも症状が出ないとPCR検査をしてくれない時があるようですし、自宅療養の人で症状が消えた人は、PCR検査で陰性を確認せず、退院扱いということもあるようです。そうしますと、周囲にうつしたり、中にはお行儀の悪い人がいたら、世間に出てしまってせっかく下火になってきた感染がまた再燃する恐れもあります。
したがって、陽性率7%未満の前提として、PCR検査をせめて和歌山県並みにきちんとして、陽性者は隔離するということにして欲しいと思います。PCR検査をこうしてたくさんできるようになると、陽性率は普通減るものです。ちなみに和歌山県では今、累計で1.9%です。
 さらに1つめの感染源不明感染者が1日10人未満という基準ですが、感染源不明のケースが多いということは、感染が世の中に広がっているということですから、行動自粛をしないといけないのですが、感染を拡げないために必要なことは、感染源不明ケースでもそこで手を抜くのではなく、徹底的にその感染者の行動履歴を調べて、その人がうつしたかもしれない人を調査して新しい感染者を発見していくという事が大事なのだということです。これも感染者があんまり多くなりすぎると、とても手が回らないのですが、感染源不明患者数だけでなくて、感染者の感染前後の行動の捕捉がきちんとできていて、そこで新たな感染者が発生していないことを確認できるようにならないといけないのではないかと私は思います。このことが和歌山県が死にものぐるいで取り組んでいることで、このプロセスでPCR検査を効果的に用いることによって感染の拡大防止を何とか果たしているところなのです。
 今大阪は、府民の自粛努力等により、感染者発生数は大分減ってきました。それを前提に府民の自粛苦労を緩和しようというのが吉村知事の出口基準だと思いまして、そしてその基準の思想自体は間違ってはいないと思いますが、基準の背後にある別の不都合な現実に目をつぶって自粛解除に走ったら、また感染がぶり返すのではないでしょうか。

 吉村知事に実は申し上げたことですが、こうして出口基準をクリアーするほど感染者数が減ってきた時、その分保健当局や医療関係者のマンパワーに少し余裕もできたのだから、まずはもう1度、保健行政のたがを締め直して、患者さんの行動捕捉、入念な隔離、その手段としての十分なPCR検査などを強化したらいいのではないでしょうか。そして、強力な保健当局が復活した上で、出口基準の数字もやはり満たすようになれば、初めて府民の行動の自粛解除に踏み切ったらいいのではないでしょうか。

 余計なお世話かもしれません。しかし、和歌山県は大阪をはじめ京阪神、そして首都圏あっての和歌山県です。その動向が和歌山の死命を決します。和歌山県も今の大阪と同じような休業要請をし、県民に自粛を求めていますが、さらに和歌山県の生命線を自ら絞め殺すようなつらい努力をしています。それは、観光立県和歌山の生命線である和歌山の主力部隊のような業種、施設に、すなわち、観光施設や農産物直売所などに他県の人に来てもらわないようにしろと、通常時とは反するお願いをしていることです。コロナさえなければこんなお願いは絶対にしません。すなわち、大阪をはじめ京阪神、そして首都圏がコロナの流行を抑えてくれるか否かが、和歌山県が生きていけるかどうかを左右するのです。したがって、大阪に是非がんばっていただいて、大阪も和歌山もなくコロナ禍から脱出して、また、共に発展していける日が来ることを心から願っています。