昨年、和歌山で産声を上げた音楽の祭典「きのくに音楽祭」が今年も10月4日から11日まで開催されました。
「きのくに音楽祭」は、和歌山県ゆかりの音楽家や、音楽を愛する財界人や篤志家が集まって行う純民間のお祭りです。総監督は県立図書館の多目的ホール「メディア・アート・ホール」の音楽監督を務めていただいている東京藝術大学学長の澤和樹さんが、今年はピアニストの宮下直子さんがコンサートプロデューサーをされました。
今年は、新型コロナウイルスの感染防止にも配慮しつつ、メディア・アート・ホール、イオンモール和歌山、和歌山県立近代美術館・博物館エントランス広場の3つの会場で、国内外の第一線で活躍されるアーティストの皆さんによるコンサートと元気と才能溢れる子供達の演奏が繰り広げられました。コロナの感染がある中ですので、開催には責任者として抵抗があったと思いますが、よく踏み切ってくれたと思います。十分に安全に配慮したこういう形のコンサートは開催できると段々わかってきました。私は可能な限り出席しましたが、この和歌山でこのようなミニコンサートが一つの企画のもとで街を挙げて行われるというのは、ちょっと西洋の文化芸術の伝統が彷彿されて、うれしくなります。
今年はベートーヴェンの生誕250年にあたるので、ベートーヴェンに大いにフォーカスをあてて企画がなされました。コンサートの演題の他に、徳川賴貞侯の収集した西洋音楽に関する一大文献、南葵音楽文庫(和歌山県立図書館に併設)からベートーヴェンにまつわる様々なお話を慶應大学の美山良夫名誉教授から伺う楽しい催し「きのくに発掘レクチャーコンサート」も、きのくに音楽祭には含まれています。10日の「今夜はオールベートーヴェン」では、ベートーヴェンが最も大切にした編成の一つ、ピアノトリオ(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ)により、最高傑作といわれる名曲「大公」が演奏され、厳格かつ優しく語りかけるようなメロディが会場に集まった皆さんの心に染みわたりました。また、11日の「きのくにファイナルコンサート」では、総勢18名の和歌山ゆかりの音楽家の方々が集い、澤さん率いる「澤クヮルテット」による素晴らしい演奏も披露されました。フィナーレには出演者全員による「歓喜の歌」が鳴り響き、会場にいる皆さんの心が一つになる音楽祭となりました。
宮下さんの遊び心でしょうか、名演奏家が入れ替わり立ち替わりピアノを演奏したり、ピアノならぬフォルテピアノというチェンバロとピアノを合わせたような楽器を和歌山大学の山名敏之教授御夫妻が披露してくれたり、中々他では経験できない面白い趣向もありました。昨年の第1回音楽祭も素晴らしかったので感激しましたが、今年もまた素晴らしいものを見、聞かせてくださったと思います。強調したいのは、この「きのくに音楽祭」は純粋に民間の方々の創意と工夫、努力でできあがっていることです。和歌山の文化芸術の底の深さの現れだと誇りに思います。
当音楽祭では、その後も音楽祭に出演したアーティストの皆さんが小学校やこども園を訪問して演奏会を開く「アウトリーチ」を開催されており、子供達の中から未来に羽ばたく音楽家が出てくることも考えられます。
実際に10月4日にメディア・アート・ホールにおいて行われた、「きのくに若い芽のコンサート」では、有望な子供達の中からオーディションで選ばれた小学校6年から高校2年までの9人の子供さんがピアノやフルート、ヴァイオリンなどを演奏しましたが、素晴らしい感動を覚えました。
来年、「紀の国わかやま文化祭2021」、「紀の国わかやま総文2021」という全国規模の文化の祭典を開催する本県の文化・芸術の気運醸成に大変貢献いただいており、今後もその発展が大いに期待されます。来年は文化祭が10月30日から23日間なものですから、この「きのくに音楽祭」は年をまたいだ2月頃行うと澤総監督から発表されました。
来年(度)はどのようなおもしろい企画になるか・・・ 今から楽しみです。