11月16日、和歌山県の文化表彰式がありました。毎年、和歌山県で顕著な文化活動をされた方や団体、又は、和歌山県出身で全国的にあるいは世界で立派な文化活動をされてきた方に対し、県民の名の下に授賞を行うもので、文化賞のほか、長年の文化活動への功労を賞す文化功労賞、これからの一層の精進を期待する文化奨励賞の3種からなります。これが始まったのは、昭和39年ですから、もう57回になります。かつての受賞者の記録を見ますと、これはすごい人がこんなにもいたのだということが分かり、驚くとともに、和歌山県民としての誇りも感じます。
今年は、文化賞を神﨑亮平さん、文化功労賞を故 尾﨑斎晃さん、小山譽城さん、文化奨励賞を尾上菊透さん、辻本好美さん、中谷政文さん、熊野速玉大社祭事保存会の方々にもらっていただいたわけですが、文化賞の神﨑亮平さんは、生物学者として、生物知能の再現による生物機能利用の研究を世界に先駆けて展開し、名だたる研究成果をあげておられるとともに、東京大学先端科学技術研究センター所長として、大勢の一流の科学者を鼓舞して学際的な研究を主導しておられます。文化功労賞の故 尾﨑斎晃さんは、版画家として、国内外の展覧会に積極的に出品して多数の受賞歴を重ねられ、小山譽城さんは、歴史学者として、長年徳川御三家の付家老の研究を続けて、その存在意義を明らかにされました。文化奨励賞の尾上菊透さんは、日本舞踊家として、歌舞伎公演やミュージカルの振付指導など、従来の枠を超えた活躍をされ、辻本好美さんは、尺八奏者として、国内外の多数の演奏活動で成功を収め、洋楽をカバーする演奏スタイルに海外から熱い視線が注がれ、中谷政文さんは、ピアニストとして、海外のコンクールで受賞を重ねる傍ら、ピアノ演奏・教授法に係る博士号も取得されました。熊野速玉大社祭事保存会の皆さんは、長年にわたり祭礼の執行及び運営を通して伝統文化の継承に重要な役割を果たしているという評価をされている、など今回も立派な方々ばかりであります。
式典では授与式の後、私の式辞、来賓の祝辞があり、その後、受賞者を代表して、神﨑亮平さんが受賞のことばを述べられました。このことばがまた素晴らしく感動しました。これは下手に論評するよりは、皆さんに、そのままの形でお届けした方が良いと思いましたので、以下に掲げます。
令和2年度和歌山県文化表彰 受賞者代表あいさつ
(東京大学先端科学技術研究センター所長 神﨑亮平氏)
ただいまご紹介に預かりました神﨑でございます。受賞者を代表しまして一言ご挨拶をさせていただきます。
私、この受賞を受けまして最初に思いましたのが、人生で一番嬉しいことって一体何だろうかとふと思いました。それで、まず一つ思い浮かんだのは、信頼している仲間から認めてもらえることかなと思いました。そして、もう一つは自分が生まれ育ったふるさとから評価をいただくこと。これは素晴らしいな、嬉しいことだな、と思いました。
今回、受賞した私どもは、和歌山、紀伊の国で育ちました。そして、今は様々な活動をして活動の場所も様々です。しかし、私たちは和歌山で生まれた、そういう心のふるさとである和歌山の心象風景が常に私たちの頭の中にはあります。そして、それが様々な活動の大きな力になっていると思います。それで、私も含め皆さん、色んなところでご活躍くださっていることと思います。こういった我々が、和歌山県から今回文化表彰をいただけましたこと、心から嬉しく思っております。さらに、これは、本当に誇りであると感じております。
私自身、紀の川の清く流れる川のもと、さらには、霊山高野を南に望む高野口に生まれました。これ、実は、辻本さんも同じようなことを(受賞者コメントに)書いておられましたが、彼女は橋本出身です。こういった、本当に自然豊かな中で育ってきましたし、実はこれは、私が卒業した高野口小学校の校歌なんです。
こういうところで育ちまして、そして、長年大学で、ご紹介にあったように、生物の知能とは一体何なんだろうか、今はAIというものがありますが、果たしてそれだけで本当に良いのだろうか、人類はそれだけで良いのだろうか。生物の知能をもっともっと明らかにしていく必要があるのではないだろうかということで、生物学、遺伝子工学といわれる分野ですね、今年まさにノーベル賞を取りましたけれども、或いはロボット工学、或いはコンピュータサイエンスという実はまったく違った分野を融合させることによって、新しい世界を切り拓こうと思って、まさに全集中をして、長年研究を行ってまいりました。
そういう中で、実は気づいたことがあります。それはどういうことかと言うと、科学技術は確かに素晴らしい恩恵がありました。でも、それだけで本当に良いのだろうかということです。科学技術はおそらく、その一輪だけでは上手くいくことではない。おそらく、文化、或いはアート、デザイン、或いは宗教も含めたような包括した考え方が非常に重要ではないかなという風にずっと考えてきたところでした。
そういう中、この新型コロナウイルスが起こりました。そういう中で、まさに身の回りのことから始まって、学校或いは組織、或いは県庁なんかも皆さんそうだと思います。或いは社会全体の仕組みが今までとは違った方向にどんどん展開していかないといけない、そういう時代になってきたわけです。まさに今までの生活様式を変えていかないといけない。よく、ニューノーマルと呼ばれていますけれども、そういう時代にいかざるを得ない、そういう状況になってきました。
そういう中で、やはり科学技術というのはとても重要だと思います。一方で、やはり、それだけでいいのか、その一輪だけで良いのか。その中では、文化的な活動、それが非常に重要であるという風に私は思っています。さらに、科学技術、文化そういったものを結ぶ必要がある。それは一体何なんだろうかとずっと考えてきたのですがそれは和の心ではないかという風に私は思っています。和の心とはどういうことかと言うと、自然というのは非常に豊かです。様々なものやことから成り立っています。そういうものがそれぞれ役割を持っている。そして、それぞれが関係をもって繋がることによって、素晴らしい世界を創っているわけです。人もまさにその一つである、そういう考え方ではないのかなと思います。
和の心というのは、私はまさにこの和歌山県から学びました。今回、受賞された皆さんを私は見てみまして、様々な分野でまさに、和をもってご活躍されているんだなということを実は感じています。和歌山ってそういう意味で素晴らしいな、特に若い皆さんが世界で活躍している。これは素晴らしいと思いました。ぜひ、こういう和歌山の力、私はシニアになりましたけれども、若い人たち、さらにはシニアの和の心をもったアーティスト、或いはサイエンティスト、そういった人たちみんなが集まることによって、より素晴らしい世界を、和歌山から発信していくことができるのではないのかなということを、まさに今日のみなさんの業績をお聞きしていて、本当に思いました。
ぜひ、この受賞を機に、先ほど談話室でみなさんとも少しお話しさせていただきましたが、ぜひ、こういう和歌山の心が作り上げたこういう力強い関係をぜひさらに進めて、様々な人々が世の中にはいます。それを和歌山の心、すべてを包括してしまう心、そういう心をもって、我々が少しでも貢献できれば、素晴らしいのではないかと思いました。
こういう土壌というのが、まさに和歌山県にあるのかなという風に思います。ぜひ皆さん一緒に、やらせていただければありがたいのかなということで、私のご挨拶に代えさせていただきます。
一つだけ、最後に一つだけぜひ言いたかったことは、実は私、こんな自由人で、本当に周りが結構大変だったのではないかと思うのですが、今日も妻が後ろに来てくれました。本当に今までなかなかお礼も言えなかったので、こういう機会をぜひ使わせていただいて、本当にお礼を申し上げたいし、本当に様々な関係の皆さま、さらには県庁の皆さまのお陰で様々な展開をさせていただいていますので、本当に心からお礼を申し上げたいと思います。これでご挨拶に代えさせていただきたいと思います。本当に本日はどうもありがとうございました。
神﨑さんのことばにありましたように、和歌山県出身者で、文化の面で活躍しておられる人が大変多いわけですが、その和歌山県で、来年、国民文化祭「紀の国わかやま文化祭2021」が開かれます。10月30日から23日間という予定でありますが、5年前の「紀の国わかやま国体・大会」の時のように素晴らしい大会にしたいと考え、目下、準備に余念がないところです。
そういう時期の今年、以上のような立派な方々が受賞の栄に浴し、神﨑さんから素晴らしいことばが示されたことは、大変意義深いことだと思います。
段々と国民文化祭の気運も盛り上がってきました。10月には、2回目となる「きのくに音楽祭」が素晴らしい音楽家の方々によって繰り広げられました。11月には「紀ららアート展」が和歌山市と田辺市で行われました。障害のある人が芸術に挑戦して、力作をたくさん出展されています。私も見に行ってきましたが、あまりの素晴らしさに大感動してまいりました。今年から来年にかけて、文化が熱いのです。