新型コロナウイルス感染症対策(その64)-ワクチン接種率日本一-

 新型コロナウイルス、特に変異株は中々手強く、保健医療行政で最も成果を挙げている県である和歌山県ですら、多くの感染者を出してしまいました。一時は和歌山県のポリシーである全員入院システムが危機に瀕するというところまでいきましたが、それまでお願いすらしていなかった不要不急の外出の自粛を県民が耐えて守っていただいたこともあり、現在は、感染者が減り、もちろん全員入院体制は堅持されて、入院できないコロナ患者が容態急変で亡くなってしまうといった事態は和歌山では皆無です。しかし、この手強いコロナをコントロールするには、もうワクチンしかないと私は思います。

 政府も今やこのワクチンの接種に大変な努力を向けられるようになり、当初圧倒的に遅れていたワクチンの確保も段々と好転し、ワクチンの打ち手がいないという和歌山県ではあり得ないようなとんでもない事態がいくつかの地域で発生したのに対しては、東京と大阪に自衛隊による集団接種会場まで出来たように、あらゆる手を使ってもワクチン接種を進めようと政府は努力しているようです。特に菅総理の本件のリーダーシップは大変なもので、ともすれば、ゆっくり慎重に、融和的に、微温的に事を進めようとする官僚組織に対して、「急げ」とものすごいプレッシャーを掛けておられるようです。その結果、ワクチンの第二優先接種対象の65歳以上の高齢者(第一優先は医療関係者)への接種完了が、全国的に7月末までに達成できそうという見通しになっていると思います。

 その中で、和歌山県は人口あたり接種率は第1位です。その和歌山県の現場から見ると、マスコミで報じられている全国で起きていることは信じられないことばかりです。
 まず打ち手がいないという点ですが、これは単に医療関係者が接種に協力しないというだけだと私は思います。何故に協力しないかというと、行政が協力をして下さいと動いていないからだと思います。医師は患者のことを考える人だから、行政が意を尽くして説得すれば協力してくれると思うし、少なくとも患者からの人気は大切だから、協力してくれるように誘導することは、行政が本当に一生懸命ならば、そう難しいことではないと私は思います。(コロナ患者の入院受入の場合とは難しさのレベルが全然違います。)

 和歌山県では、コロナとの闘いは最後はワクチンしかないと思っていましたから、つとに県が高齢者の接種を担当する市町村と協議組織を作って、全県的に早くから、どうしたら一番効果的に接種を進められるかという相談をしてきたのです。その結論は、それぞれの実態に応じた方法で行い、かつ、そのスピードをそれぞれ極大にするということです。和歌山県は全国的に見ると一地方に過ぎませんが、その状況は県内30市町村ごとに大きく異なります。県庁所在地の和歌山市は人口も多いし、市内のクリニックも多いのだから、クリニックを主役とする個別接種でいこうという和歌山市の意向を尊重しました。一方人口が少なく、医師数も少ない一部の町村は住民を集めて集団接種でいこうということにしました。中には、隣の町と生活も医療環境も一体なので一緒に集団接種をしようという町も出てきました。しかし、このような方向性が決まっても、のんびりとしていては、接種が進みません。個別接種を選択した和歌山市では県、市をあげて接種に協力してくれるクリニックのリクルートに努力しました。
 医師会の幹部も大変協力してくれました。接種開始時はそれほどの数でもなかった協力クリニックは行政の説得と住民の皆さんのプレッシャーが効いて、瞬く間に280機関にまで膨れあがりました。ワクチンを上手く小分けにして供給する和歌山市当局の努力も大変なものです。また一貫して早く早くと号令を掛けまくった尾花和歌山市長の働きも特筆されるべきです。一方、人口の少ない集団接種でいこうと決めた町村当局の努力も大変なものです。山間部に孤立して住んでいるお年寄りを役場の職員が車で接種会場まで連れてくるといったことまで一生懸命にやったのです。共同で接種しようということにした隣接町のために、県当局は政府に掛け合いながらその方式で接種できるようにしました。

 このような行政や医療関係者の努力によって、初めて接種率日本一が実現したのです。時々和歌山市の個別接種による接種の進展を評して、和歌山市はクリニックが人口比でうんと多いので出来たのだということを言う人もいますが、クリニックが多いという実態は前提条件にすぎず、それを生かしていかに接種を進めるかは、行政や医療関係者の努力の結晶だということを見逃しています。クリニックの数だけが決め手だと言うのであれば、クリニックの人口比数が和歌山市の次ぐらいに多い東京都区部が、和歌山県に次いで接種率2位ぐらいに入っているはずではないかと思います。

 しかし、実は接種率日本一ということは、ワクチンの在庫率ワースト1に繋がる大変な状況にあるということなのです。というのは、配分は全国ほぼ同様でしたから、早くうったということはその分在庫がなく、うちたくてもワクチンがないから打てないという状況になるリスクがとても高い県ということなのです。現に、既に和歌山県のいくつかの市町においては、ワクチンの配分がないので、本当はもっとうてるのにうつのを止めざるを得なくなった所が出てきていたのです。例えてみると編成も装備もできた志気も高い部隊が弾薬が来ないので進軍ストップという状況です。これでは政府の目標とするできるだけ国民すべてにワクチンを打ち終わるということが達成できません。ワクチンの配分を早くうてるところに多く配ってあげないと、それは絶対に実現できません。早くうてる所に配分量を多くしても、態勢作りが遅れてなかなか接種が進まない所の足を引っ張ることにはなりません。何故なら無理に遅い所に配分してもそれは速やかな接種に繋がらず、在庫に回るだけだからです。それよりも、どんどんうてる県にはどんどんうたせて、全体のうち終わりの時期を早めた方がずっと日本のためです。

 私は、ワクチン接種の実情を十分に理解されている河野大臣にも先週直接お願いに行き、有力国会議員にも説き、全国知事会でもその旨主張をし、関西広域連合でも同志を募りました。ありがたいことにこのような声は天に届きました。5月31日の配分では、接種率の高い上位5県には県からの希望通りの配分をするという通知が県に届きました。これによって、ワクチン接種の目途が立ったわけですから、「玉切れ」リスクを勘案して、一部で停止していたワクチン接種が全速力で再開できることになります。当然、65歳以上の方々への接種にすぐ引き続いて、60歳~64歳の人々と基礎疾患のある人への接種が、間を置くことなく行えます。そして、その次は60歳未満の全ての人への接種を次々に行って良いということになります。おそらく総理をはじめ政府首脳がこれを決断してくれたものと思い、心から感謝を申し上げたいと思っています。

 もちろん今回の配分だけではすべての対象者のワクチン接種完了というところまでは保証されていません。でも、どんどん接種を進め、今まで以上にスピードアップをして、また足りなくなりそうだったら私も動き回って、今回のような配分をお願いに行こうと思っています。さらにスピードアップをするために、和歌山市などでは上記個別接種のラインの横に集団接種のラインを作ろうと検討中です。そのときはモデルナワクチンを供給すると河野大臣も言ってくださっています。このようにあらゆる手を使ってすべての対象者へのワクチン接種完了を目指したいと思います。

 あの済生会有田病院のコロナの封じ込めと再生で和歌山モデルと讃えられて以来、保健医療行政のパフォーマンスで頑張ってきた和歌山県ですが、今度はワクチンで一日も早く接種完了を達成して日本全体のワクチン対策をリードしていきたいと願っています。