新型コロナウイルス感染症対策(その67)-データで見る感染症対策の急所(その4)と東京が危ない-

 当県ではコロナの感染はこの1か月くらい落ち着いてきて、日によって発見0の日もぽつぽつ、多い日でも数人くらいになってきています。関西もひと頃に比べて随分減ってきて、各府県の病床状況も、各府県で本当に大変な思いをしてきた入院調整も楽になってきています。
 しかし、関西全体でみるとまだまだ多くて、大阪、兵庫、京都の3府県がまん延防止等重点措置区域になって大いに用心をしているのも極めて妥当だと思いますし、和歌山県のような感染者が今のところ少ない県も、外部からも感染が入ってくるのは、ある程度覚悟しないといけない以上、一人でも感染者が発見されれば全力をあげて行動履歴の調査、接触者の検査、入院等の隔離など囲い込みに努力しなければなりません。ちょっと油断すると、簡単にクラスターになるのです。

 その中で、和歌山県ではマスコミ報道などによるムードに流されることなく、データに基づく科学的な対策、対応をしていかなければならないと考えていますが、福祉保健部の野尻技監が時々、和歌山県の知見に基づくデータ分析をしてくれています。それは、県庁HPなどでその都度発表をしているのですが、コロナ感染症対策を考える上で大事だと思うことをいくつか申し述べたいと思います。

 本来なら、もっと多くの知見が集まってくる厚生労働省や政府やマスコミのアドバイザーとして名の高い専門家の方々が行うべき仕事だと思いますが、具体的なデータ分析もあまりお示しにならず、急所は飲食だ、人流を抑制せよという人ばかりと感じられますので、知見データは少ないのですが、和歌山県から報告申し上げます。なお、和歌山県は感染症法で県行政に課された義務を忠実に果たしていますので、知見データは感染者数がそう多くないので少ないのですが、その分析結果は科学的にかなり正確だと思います。

1.第一波から第四波にかけてどんどんうつりやすくなっている。

 図1がそれを表していますが、当初に感染が判明した人からうつされたと思う人の割当は、第一波から順に1.37、1.44、1.62、1.72と高まってきています。どんどんうつりやすくなっているのです。特に第四波は、同居人への感染が高まっていて、家族にはどんどんうつってしまうという状況です。個々のケースの報告を受けた時の印象はこのデータ以上で、家族にはほとんど全員うつっているという印象でした。感染症対策の陣頭指揮を熱心にしている他県の知事の印象も同様とお聞きしています。
<図1>

2.他の人にうつすタイミング

 図2で示していますが、よく言われるように、発症前の感染者からもコロナはうつります。第四波でも第三波と同じように発症前4日前からうつるケースがあるようです。3日前には人にうつす有意の数があることが分かりますので、和歌山県は検査をする対象者を感染者が発症後に接した人はもちろんですが、発症前3日間に接した人も含めて検査をしています。(国の基準では発症2日前からですが、データから3日前から検査しないと見落とすと思っていましたので、従来からそうしています。)発症後しばらくすると感染させる人は減っていきますが、和歌山県では、発症していようといまいと感染者は全員入院ですので、発症後に感染させる人の数は、感染者の把握が和歌山県のようにしっかりしていない県に比べて少なく出るきらいはあると思います。(発症後いつまで人にうつすかについては別のデータの問題となります(その47参照))
<図2>

3.高温発熱をしない感染者も多いので、高熱が出なくてもクリニックに行こう

 コロナというと高い熱が出るものと私たちの多くは思っていますが、発熱なしまたは熱が高くならない人も随分といます(図3)。その結果、発症しても熱がそう高くならないので、体調はいろいろと変だけれどコロナとも思わずに医者を受診しない人がいて困っています。コロナは発熱のほか様々な症状が出てきます。我々が分かっているだけでも咳などの風邪症状や全身倦怠感、味覚・嗅覚異常といったものがあります。したがって、熱が高くなくても何らかの体調異常があればすぐに医者に相談して、PCR検査や抗原検査をしてもらってくださいと県民の皆さんに言っています。和歌山県では普通のクリニックでもこのような検査がすぐ自力でできるようになっているところも多いし、そうでないところは近所のそういう検査のできるクリニックや病院を紹介することになっています。ところが、時々それを怠る感染者もいるし、せっかく受診しているのに検査をしないでコロナを見逃してしまうクリニックの先生もいて困ったことです。

 何が困るかというと、感染者を放置してしまい、その結果多くの人にこの感染者がコロナをうつしてしまうことになるというのが一点、もう一点は、このコロナ、特に第四波のイギリス型のアルファ株は、放っておくと急速に病状が悪化することがあるということです。特に肺炎が心配です。和歌山でも発症後何日も放っておくと、とうとう受診されたときは肺炎が進行していて、いきなり酸素投与あるいはICUという方もいました。コロナの進行と発熱の程度は1対1ではありません。ましてや国が昨年の春に広く国民に発信し、NHKが毎日ニュースで流したのに対し、和歌山県が「そんなものは従えません」と言った「37.5度以上の熱が4日以上続いて初めてコロナを疑って医者に行け」という指示は全く間違っていました。
<図3>

4.当初無症状で大したことはないと思ってもどんどん悪くなる
 和歌山県は全員入院を貫徹していますから、このことがよくわかります。逆にそのことが分かっているから全員入院させないと命にかかわると思っているのです。
 図4は和歌山県で陽性が判明して入院した人たちが、その後どのような経過をたどったかを示しています。和歌山県で陽性が判明した人は、症状があろうが、なかろうが全員入院ですが、調査をした1293人中当初何らかの症状があった人は910人、無症状であった人は383人でした。ところが、その383人中、退院をするまで無症状でとどまった人は70人、軽症症状を発した人は161人、肺炎を発症した人は152人で、そのうち、酸素投与を必要とした人は31人(和歌山県ではこの人々を重症者と称していますが、国の定義では中等症ということでしょうか。)、さらにそのうちICUに入って国の定義でも重症化したが何とか生還した人が5人、亡くなった人が6人もいます。肺炎を起こしたり、このように症状が深刻化して、重症化したり、亡くなったりする人はお年寄りが多いのですが、若い人でも無症状だったのに、後で肺炎を起こす人も随分いますし(10代から50代までで73人)、酸素投与が必要となった人も2人います。若い人もこのような症状の悪化には無縁ではないのです。全員入院で24時間監視をし、必死で手当てをしていてもこういう状態ですから、無症状や軽症だからと言って、自宅やホテルで療養又は待機をしていて、常時監視の外にいたら、どんなに危険か火を見るよりも明らかです。

 この病気がこうなるということを警告せず、軽症者は自宅療養を基本とするといったり、病床の拡大を強く勧めなかった専門家と称する人は、いったい何を見ているのかと思うところがあります。自宅療養を指示されたり、ホテル療養を命じられたりして、急速に症状が悪化して亡くなった人がいるというようなニュースを見ると、怒りで胸が震えます。ただ、あまりにも急に感染者が増えて、入院をさせるべきと思いつつそれが果たせなかった多くの県の保健医療行政に携わっている人を批難するなどは絶対にできません。むしろ、現場にいて、事態のおそろしさもよく分かっていながら、そうせざるをえなかった実務家の方々には同情を禁じえません。
<図4>

5.若者も重症化する変異株のおそろしさ

 第四波の主役であった変異株(イギリス型=アルファ株)はうつりやすいということと、重症化しやすいという2つの特色があったと思います。その結果、鉄壁の守りだと思っていた和歌山県の保健医療行政も大いに追いつめられ、とうとう4月中旬から1か月半、従来は生活や経済を根本的に壊すから行っていなかった県民への一般的外出の自粛(不要不急の外出の自粛)をお願いせざるをえなくなりました。すなわち人流の抑制に手をつけざるをえなくなったのです。(今は感染がおさまってきたので元に戻しています。)図5は、変異株と従来株の肺炎発症率の状況です。従来株では、肺炎にまで至る人も少ないし、そのうち酸素投与に至る人はかなり少ないのですが、変異株ではいずれも多く、特に酸素投与に至る人の比率がかなり高くなっています。年代別には、お年寄りも変異株の方がずっと重症化しますが、従来株は、若い人はほとんど重症化しなかったのが、変異株では若い人も重症化する人がかなり多くなっています。

 かつて、若い人の中に、自分たちは重症化しないから、かかってもよい、命にかかわる人は高齢者だけだと思い込んで、放埓な行動をする不心得者がいましたが、変異株では、そういう人の命すらおびやかす事も結構あるのだということをよく理解して行動してもらいたいものだと思います。この後におそらくインド株(デルタ株)も押し寄せてきます。イギリス株よりもっときついとの話です。若者もさらに用心しなければなりません。

 また、この関係で、「最近コロナが収束してきたのでワクチンを打たなくても大丈夫かな」、「ワクチンは危ないという人もいるし」などと思う人が多くなり、ワクチン接種申し込みが少しペースが落ちているという分析もあります。しかし、来るかもしれないデルタ株の流行を考えると、ワクチンを接種しておいたほうが絶対得だと考えるべきだと思います。デルタ株でもワクチンは効くようですから。
<図5>

6.受診が遅れた人の危険性

 和歌山県では、県民の皆さんに、何らかの症状があったらすぐ医者に行ってPCR検査などでコロナか否かを調べてもらって下さいとしつこいほどアナウンスしています。それでも時として、中々受診してくれず、自宅などにいて多くの人にうつすことになったり、発見された時は本人の症状が危険な状態になっていたりすることが後を絶ちません。
 図6はこの4月と5月に、発症後何日目に受診してくれたかを示すグラフです。4月は全体298人の中で、発症後5日以上受診しなかった人が31人(10.4%)いますということをあらわしています。5月には、その数値は158人中29人(18.4%)でした。その31人や29人が入院後どうなったかを調べますと、図7のとおりで、4月は31人中21人が肺炎になり酸素投与を受ける状況になり、5月は29人中20人がそうなりました。発見が遅れれば遅れるほど、命のリスクが高まっていきます。コロナ陽性者を見つけ出して入院手配を行う保健医療行政の重要性がおわかりになっていただけることと思います。しかし、TVでたび重ねて人流に懸念を示される専門家の方々がこのことに言及されるのを見ることはありません。
<図6>

<図7>

7.第四波は何であったのか-今東京が危ない

 図8は、東京、大阪、和歌山の感染動向の推移です。第四波は関西に大打撃をもたらしました。関西の中心大阪の感染はすさまじく、感染者の人口割合はもちろん絶対的感染者数も、人口がかなり大きい東京をはるかに上回りました。それまで比較的感染の抑え込みに成功していた和歌山県の感染者も大阪と同調的に増え、さすがに保健医療行政だけでは抑え込めないと思って、県民に人流の抑制、すなわち一般的不要不急の外出の自粛をお願いせざるをえないところまで追い込まれました。しかし、これを聞いてくださった県民の皆さんの協力もあり、保健医療行政も最後まで屈しないで堅塁を死守した結果、最後まで全員入院を守り切ることができ、今は急激に感染者が減って、随分楽になっています。(もちろん一般的な人流抑制は、かなり前に解除しています。)

<図8>

 もう一度図8を見たところ、大阪と和歌山はほとんど同じ波型を描き相似型なのに対し、東京は2月から3月にかけて、少しちがう動きをしています。すなわち、大阪や和歌山が感染者をうんと減らした2月から3月にかけて、東京の感染者は下げ止まりを示しています。関西がやれやれ感染がおさまってきたと思った時、十分減り切れなかった東京から感染が及んできて、それが変異株も含んでいたため、第四波初期にそのコントロールに失敗した関西で大爆発がおきてしまったのではないかと私には解釈できるのです。もちろん、この点は他の意見の方もいるでしょう。何といっても、東京は日本の中心地ですから、そこで一定程度おさまり切らないコロナの残り火があったら、他地域にまた急速に及んでいくという姿です。

 その意味でも心配なのは、さしもの第四波の猛威も関西ではかなり収束してきているのに、東京の減り方が少なく、この1週間ぐらいは逆に増えてきているということです。(図9)すなわち、東京が危ないと思うのです。これは、人流では説明がつきません。唯一説明がつくのは、東京や首都圏と関西との保健医療行政への傾倒の違いです。
 コロナが圧倒的に猛威をふるっている時は保健医療行政にのみ頼ることは無理で、人流を抑えるために強力な自粛をお願いせざるをえませんが、あるところまで感染がおさまってきたら、その後ストンと感染を収束させるかどうかは保健医療行政をきちんとやっているか否かにかかわっていると私は思います。関西はあれほど第四波でひどい目にあいましたが、関西広域連合では皆で保健医療行政の実状を持ち寄って、他県の成功例をまねることができるような工夫をしてきましたし、皆でこれを死守しようと常に呼びかけ合ってきました。しかし、東京や首都圏はどうでしょうか。かつて、コロナが手におえないほど拡大した時、「もはや積極的疫学調査の意義はなくなった」と公言した知事もおられたし、東京、関西それぞれのマスコミの寵児である小池東京都知事と吉村大阪府知事のマスコミでの発言を見ても、吉村知事の方が保健医療行政、特に医療体制の充実に力点を置く比率が圧倒的に高いと思うのは私だけでしょうか。けだし、首都圏も含め全体に保健医療行政の立て直しと充実に力が入らないのは、マスコミに多く登場する専門家がもっぱら人流の増加への懸念を述べるだけに終止し、マスコミがそれをよしとして同じ情報をたくさん流すからではありますまいか。専門家なら、吉村大阪府知事が今一生懸命に行っている病床の拡大や、保健所体制の強化にもっと関心を持ち、適切なアドバイスをすべきであると私は思います。そうすれば、それに触発されて、小池知事のような頭の良い有能な知事が奔走して、保健医療行政の充実、積極的疫学調査、病院体制の再編に傾倒されるのではないかと思うのです。
<図9>

 この「東京が危ない」心配を加速するかもしれないデータはインド株(デルタ株)の動向です。図10は6月14日現在のデルタ株の発生状況を示しています。デルタ株はアルファ株よりもさらに強烈ですので、これが大爆発したらとても心配ですが、この図からは関西で大爆発したアルファ株と違って、今のところ関東でパラパラと発見される比率が高くなっています。(もっとも、つい最近兵庫県でこのデルタ株のクラスターも起こりました。)まだ諸外国と違って数は少なく、数が少ないうちに抑え込む最大の資産、感染症法と保健所を武器とする保健医療行政を日本は有しています。数が少ないうちに総がかりで囲い込めば、かなり感染は防げるということを、和歌山県やそれよりももっと成績の良い鳥取県などの行政がすでに証明してみせています。今のうちに、この保健医療行政の重要性とその強化を政府も専門家もマスコミも声高らかに主張して、各県の行政に防遏に努めさせなければ本当に危ないと思います。特にその点をあまり重視していないように見える(見えるだけだと本当にいいのですが)東京都、首都圏がとても危ないと思うのです。
<図10>

 実際に、東京を中心とする地域の感染者が下げ止まりか増加に転じています。東京は日本の中心です。感染がここで拡大したら、日本中が再び影響を受けます。これを防ぐため、専門家の方々も、オリンピックによる人流の増加の問題も大事ではないとはいいませんが、他の大事なことについても、専門家らしく、日本をリードするような知識と技量を見せてほしいものだと思います。