万博への期待

 大阪・関西万博は2025年春から大阪の夢洲で開催されます。開催までもう2年を割っていて、これから急ピッチで会場の整備が進むものと思われます。和歌山も関西の一員ですから、この万博が大盛況に推移し、内外から多くのお客様がお見えになると、関西にとっても、和歌山にとっても、さらには日本にとってもとても歓迎すべきことであります。
 4月13日、その万博の起工式が夢洲会場で行われました。丁度、開会式の2年前という日付です。私も前関西広域連合長として万博の盛り上げのために活動した故か、起工式にお呼び頂き出席して参りました。岸田総理や西村経済産業相など政府要人や財界の代表、外交団、地方公共団体の首長、各種プロデューサーの方々など多くの人の出席を得て、なかなか盛会であったと思います。私が感心したのは、総理をはじめ挨拶をされた人たちが、書かれたものを読む、通り一遍の挨拶ではなく、心のこもった言葉を手向けられたことでした。それだけ、皆さんに万博への思いが強いのでしょう。

 私もこの万博には大変思い入れがあります。まず、大阪開催決定がそう容易ではなかったことです。万博はものすごく長い歴史のある世界の行事ですから、開催地の選定やその運営についても世界的な厳格な制度の下に行われています。主体は国際博覧会協会ですが、オリンピックと違って、これは政府間の組織であって、投票権は政府にあるということです。したがって、国と国との貸し借りといった外交的バランスがものを言います。ということは、政府が国と国の関係を懸けて支持を取り集めなければ、うまく行かないということです。思い起こすと、ある時期パリが立候補を取り下げたので、楽観論が日本を支配していて、外務省も本腰をあげていないように思えました。熱心な大阪の首長さんたちが諸外国にPR行脚に行って、とても人気があった、成果が上がったといった報道が日本を覆っていました。これはとても危ない兆候で、開催国はそんなことでは決まりません。私は、どうしてもこの万博を関西に持ってきたかったので、万博担当の経産省の幹部のところに行って色々と心配の丈を話してきました。さすがに経産省はこのことをよく分かっていて、ショーみたいな勧誘活動ではだめで、政府外交の総力を挙げて頑張ろうとしていると、危機感を共有してくれました。その後の様相を見ていると、経産省を初め日本政府は実に的確に動かれたと思います。また、関西広域連合の構成地方公共団体など地方でも、日本が開催地に選ばれるために動けることはないか、考えてみました。 政府からは姉妹関係にある外国地方政府に働きかけよというお達しが来ましたが、これはおそらく効きません。なぜならば、日本も外国も、地方政府が国レベルでの意思決定に影響を与えられるケースはごくまれだからです。しかし、たまたま和歌山県は、別の理由で外国の中央政府に食い込んでいるところがありましたので、そこには、政府として是非日本を応援してくれというお願いをいたしました。そのうちいくつかの国からはOKの返事を頂きました。一方、ある国からは日本には恩義があるので応援したいが、日本の他の候補国に宗教上の友宜もあるので、判断は保留したいといった返事も来ました。これらのことを政府にご報告したのは言うまでもありません。もう一つ、和歌山県が強く県民に働きかけたのは、万博を応援する国内組織に個人も法人もどんどん入ろうということです。どの国がふさわしいかと国際機関で議論する時、先述の国同士の貸し借りも大事ですが、候補国の内部で、どれだけ万博がそれぞれの国民に支持されているかということも大事な判断材料とされます。したがって、こういう応援組織にいっぱい人が入るということは日本が支持を集める武器にもなるのです。県をあげて頑張った結果、和歌山県は人口や企業の数にしては異常に多い参加者を達成しました。一時は個人で4位、法人で東京を押さえて2位という状況でした。私はこのことを関西広域連合でも結構力説し、それぞれの県で努力するようにお願いしましたが、結果は大阪を除くとあまり多くの参加は得られなかったようです。

 かくて、めでたく大阪関西万博は開催が決定されました。次はこれを成功させることです。しかし、せっかく大阪・「関西」万博と名づけて頂いたのに、大阪以外の各県の盛り上がりは、当初は正直低調だったかなと思います。このことは政府、与党からもあからさまではないにしろ、苦言を呈され、関西広域連合長としてはいささか肩身の狭い思いをしました。そこで、せめて、連合長の出番のある会合には全部出て、覚悟を述べ、誠意を示すということに心がけていました。さらに、口先だけではいけませんので、機運醸成シンポジウムを他県に先駆けて大きな規模で行いました。そして、最後の切り札として考えたのが、万博会場に関西広域連合のパビリオンを建てるということです。

 大阪府市は独自のパビリオンを建てるということを初めから決めていたのですが、その敷地の隣に関西広域連合のパビリオンを建てようと提案しました。お金もかかりますから、私の提案がすぐに全メンバーの賛成を得られたわけではありません。しかし、段々と賛成者が増えて、建設をすることに意見が一致しました。
 私の提案は、この関西広域連合館においては、関西全体をアピールするスペースはそう大きくしないで、残りは希望に応じて各府県に割り振った上で、共通スペースの企画は関西広域連合の本部事務局が行うが、各府県スペースは各府県がそれぞれ企画をして、府県のPRをし、府県のアピールをすればよいというものでした。 各府県はそれぞれにアピールしたい点があるだろうから、それぞれの考えで、そのアピールをして貰ったらいいという考えです。
私がこのように提案をしたのは、和歌山のことを考えると、万博でもっとも狙うべきは和歌山に万博のお客さんを連れてくるということだという信念があったからです。そのためには和歌山で独自にその目的に合う企画が出来るようにしたらよいと考えたのです。和歌山には、素晴らしいところは沢山あるけれど、万博のお客さんにアピールして和歌山に来て貰うことが大事だから、この際和歌山ブースのメインテーマは観光に絞ろうと思いました。かつ、この手の企画の時に、コンサルとかプロデューサーとかの人に任すと、たいてい張り切って高邁なコンセプトを前面に出した芸術作品を作ろうとするのだが、それはどうでしょう。万博全体ならともかく、全体の中のごく小さな部分で力んでも仕方がないので、この際、和歌山の観光資源をVR(バーチャルリアリティ)で来館者に体験して貰い、そこで感動した来館者には、「続きは和歌山に来てリアルな体験をして下さい」と言おうよというものでした。万博をいい機会と考えて万博の参加者に出来るだけ和歌山に来て貰おうという実利的な作戦です。逆に言うと高邁な哲学や芸術や文化そのもののアピールはあまり重んじていませんでした。
 そしてその考えは、関西広域連合の会合などで、「和歌山県はこうする予定ですが、各府県はそれぞれ考えてください」と、各府県の代表に繰り返し説明してあげていました。ただ、私の任期は12月まででしたから、具体的なプランが出来ていたわけではありません。

 開会まで2年を切った先日、和歌山県では、新知事により和歌山ブースの企画に関する発表がありました。その内容は、メインテーマは和歌山の観光で変わりはないのですが、やはり身もふたもないVRによる和歌山の観光資源の疑似体験だけでは物足りなかったのでしょうか、「和歌山の自然や神話にちなんだ『和歌山百景-霊性の聖地-』を映像タワー『トーテム』で紹介」ということになっているようです。(読売新聞要約)そして気鋭のデザイナーなどにお願いして具体化をして貰うようです。

 私はこれを聞いて、やはりこういう風に力(りき)が入るんだなあと思いました。そして、なかなかいいものが出来そうだという期待と、大丈夫かなあという不安の両方を感じました。
 良いものが出来ることを祈りたいと思いますが、いやと言うほどこの手のイベントを手がけて来た私が思うに、あまり力むと来場者の多くの人に理解してもらえなくなるというリスクもあります。それに、仮にそれが分かってくれたとして、分かった人が「リアルな」和歌山に来てくれて和歌山がそれで潤うかなあという点も懸念されます。これが万博全体を巻き込んだようなスケールで行われたらきっとインパクトもあるでしょうが、小さな関西館の中のさらにその一部に過ぎない和歌山ブースでは、その目的を達することはとても難しいと思います。
 そう思ったので、難しいことは言わないで和歌山観光のバーチュアル体験をさせてしまえと言う実利コンセプトを思いついたのです。そのとき説明していたのは、たとえばバーチャルな世界で、那智の滝に近づいて圧倒的な水の落下を間近で感じて貰い、出来れば水蒸気がかかって少しぬれるといったような感じがいいのではないか、出来ればそのとき最新の3D技術なども利用して迫力を出すといいのではないかと言った具合でした。
 岸本知事の記者会見では3Dは古いからと言われてしまいましたが、大事なことは、あまり力まないで、和歌山の観光資源をアピールするということで、そのためにVRを使うということと、その目的はVRで感動した人を万博会場からリアルな和歌山の観光地に連れ出そうということだったのですが。

 このように、各府県でそれぞれのブースの検討が進み、5月25日、それを読売新聞がまとめて夕刊の一面トップに報じてくれました。関西館がこのように世間の関心を呼ぶと言うことは大変ありがたく、取り上げてくれた読売新聞に感謝をしなければなりません。ところが、あっと驚いたのは徳島県や鳥取県の企画です。いずれもVRでその自慢の観光資源をPRしようというもので、徳島県は鳴門の渦潮の中に自分がいるような体験をさせるというものだし、鳥取県は鏡を使って無限砂丘を感じて貰うというものです。おまけに、徳島県の担当者が「来場者が徳島に足を運ぶきっかけとなれば」と語っていると報じられていますが、あれれ!それは誰の台詞だったかなと苦笑させられました。この二つの県のブースは特に大きく取り上げられていましたので、読売新聞的にはこういう行き方を評価しているのでしょう。私は先述のように、関西館のコンセプトをいろんなところで説いていたのですが、ぱくりと食べてくれたのが徳島県で、それから離れて観光客の誘致という実利より、高邁なコンセプトの発信という方向に行ったのが和歌山県と言うのは皮肉だなあと思っています。

 ともあれ、万博開会まであと2年足らず、この関西広域連合パビリオンの活用のみならず、万博をいかに地域発展のエネルギーにするか、そのために何を仕掛けておくか自治体や企業の知恵が問われています。 和歌山県庁頑張れ、そして関西頑張れ、もちろん日本頑張れ。