このところ和歌山と東京の行ったり来たりの生活をしています。交通手段は、最近は車がないので、新幹線移動が便利であると言うことが分かり、そうしています。この生活が始まった昨年の年末ぐらいはまだコロナもやかましく、海外との渡航制限もあって、観光にも火が付いていない状態ですから、新幹線もくろしおも大変空いていて、昔日の新幹線の混みようを覚えている私には異常な光景でした。ところが、この状況はみるみるうちに変わり、さらにどんどん変わりつつあります。新幹線も車両によっては満席になっていて、しかもその客は、年の初めのようにもっぱらビジネス客かと思われるような人よりも、キャピキャピの観光客らしい人達が多くなり、何よりも外国人観光客の姿がものすごく増えました。はじめは西洋人が一目瞭然なので目立ちましたが、最近は気を付けていると、日本人かと思っていたアジア系の顔の人にかなり外国の人が混じっていることに気が付きました。新幹線ばかりではありません。東京の街を地下鉄を使ってあちこち行く機会が結構あるものですから、注意して見ていますと、沢山の外国人の姿が見られます。東京も国際都市ですから、東京で働いている外国人も随分いるとは思いますが、明らかに観光客だなと思う人もいっぱい歩いています。
いよいよ観光の復活です。インバウンド3000万人が実現し、5000万人も目前だと思っていたコロナの直前の時代にあっという間に戻りそうです。これは大チャンス到来、さて和歌山の出番だと思うのですが、大いに心配をしています。先ほど申しました和歌山と東京の往復の中で、くろしおに乗り換えた途端、車内の混み方も今年の初めとあまり変わらないし、外国人らしいお客がほとんどいません。和歌山市の中でしょっちゅううろうろしているのですが、外国人観光客らしい人はほとんど見かけません。まだまだコロナ前のようにはなっていません。心配です。
和歌山の観光も近年はあちこちで脚光を浴びるようになりましたが、かなり前は振るいませんでした。特に、外国人観光客は極端に少なかったのです。その時も今も観光資源は同じですから、知名度を上げ、新しいニーズに合わせる努力をしてきたから、それがじわじわと効いてきて観光の面で和歌山も調子がよくなっていたわけです。しかしそのためには長い報われない時代がありました。観光の宣伝をしようと、誰が見てもいい観光資源をアピールしようとしても、マスコミなどがなかなか取り上げてくれなくて腹が立ったときも沢山あります。それでも手を変え、品を変え、努力をし続けていると、きっかけが出来ると、ばたばたとあちこちで取り上げてくれるようになることもありました。例えば白浜のパンダは、今でこそ、上野のパンダほどではなくても、少なくとも二つ並んで紹介されるところまで行っていると思いますが、私が知事になったばっかりの頃は、パンダといえば上野のパンダばかり取り上げられていました。白浜の方が数も多いし、並ばずに広々としたところでゆっくりと見られるのになんだと言って暴れたこともありました。しかし頑張って県庁をあげてPRをしていたら、NHKで白浜パンダのドキュメンタリーをやってくれました。とてもいい番組だと思っていたら、これをきっかけにどのメディアもどんどん白浜パンダを取り上げてくれるようになりました。
実は、コロナの直前は、海外旅行ジャーナリズムが和歌山をえらく高く評価してくれるようになっていたのです。最近は、海外旅行者も、一頃の大都市への爆買い旅行ツアーというものから、個人旅行にシフトしています。そうすると、そういう人は旅行専門誌を読んで研究するのですが、その世界的権威の一つで、和歌山が世界中で行くべき20地域の5位に日本で唯一選ばれたり、サステナビリティー部門で世界一の旅行先だと評価されたり、いろいろな「タイトル」を総なめにしていました。よしよしこれで影響を受けた人がたくさん来てくれるぞ、これからは和歌山の時代だと私は期待していたわけです。そうしたらコロナです。しかも3年も続きました。
折角の高評価も3年も前になると今これから旅行を考える人にとっては意味を減じます。ようやく海外旅行客がいっぱい来るぞという時期になって、余程努力をしないと客はよそへ行ってしまいます。
このような海外旅行ジャーナリズムに取り上げてくれるようになったのも偶然ではありません。県をあげてPRにつとめたからです。私も言ってはいけないと先方から口止めをされている相手先も含めて、少しは海外でも火を付けて回りましたが、県庁の精鋭部隊が世界を飛び回り、国内でも玄人筋の旅行業界メディアも含めてたゆまず努力してくれたおかげです。しかもこういうものは、パンダの例でもよく分かるように臨界点に達すると割合取り上げてくれるようになるが、そこに至るまでは鼻も引っかけてくれない時代が続きます。ずっと努力してきた人の個人的人脈がものを言う世界です。こういう人知れずに行なわれている先行投資が最後にものを言うわけです。私なども、そういう人脈を生かして引っ張ってきてくれたメディアの取材によく応じて宣伝をさせてもらいました。また、そういう御世話になっているメディア関係者をそっくり和歌山宣伝イベントにお呼びして個別に感謝の気持ちを伝えるのも大事なことです。私など、全部のことを覚えていられるわけはありませんが、招待客のアレンジから、個別の挨拶のための紹介まで日根前所長率いる東京事務所、和歌山紀州館、観光部局や商工部局、食品流通課で営業にかけずり回ってくれた職員がそういうことをやってくれたから何とかやってこれたのです。おかげでこういうイベントの時には、それぞれの職員がその人脈で心をつかんでいる関係者に次々と紹介されるので、自分は全く何も食べられません。
しかし、3年間十分な活動が出来なかった分、過去の蓄積はほとんど消えています。また、新しい努力を県全体でやっていかなければなりません。こういう営業活動のうち、知事自身が人寄せパンダで頑張らないと行けない場面が沢山あります。知事の仕事の大事な要素はこういう営業です。しかしこの手の営業は県民からはほとんど見えません。県内のイベントに出ると言うことになると、有権者である県民の方々はそれだけで評価してくれます。政府や政界の有力者とおつきあいをしていると評価してくれます。しかしこの手の営業活動の相手はたいてい有権者ではありません。いくら頑張っても有権者には見えません。有権者に評価されて投票してもらわなければならない政治家としてはつらいことです。しかしそれをいとわずにやり続けなければ、地域の力はわいてきません。有権者に見えることだけに力を入れていると、また元の木阿弥です。
コロナのおかげで、3年前に盛り上がった観光立県和歌山の名声は忘れられているかもしれません。チャンスがすぐそこに来ているからこそ、死にものぐるいで過去の人脈を掘り出し、さび付いているかもしれないパイプをもう一度磨き上げ、日本中はもちろん、世界に打って出て、もう一度観光和歌山の名声を高める活動にしゃにむに突っ込まなければなりません。このような見えない努力、先行投資を我々は大いに評価し、期待しましょう。