和歌山県岸本知事と全日空井上社長との対談-価値ある失敗-

 テレビ和歌山の「きのくに21」で岸本知事と全日空の井上慎一社長との対談を見ました。すばらしい内容だったと思います。
 和歌山県では、県のPR番組として、テレビ和歌山で「きのくに21」を日曜の朝と夜に放送しています。30分間の番組ですが、通常は県政のおもしろそうな内容をピックアップして前半と後半15分ずつ特集し、担当部長や局長、たまには直接の担当の若手職員が説明をしながら、関連イベントなどの映像を流してもらっています。職員も登場しますが、緊張のあまり、下を見たり、カンペを見たりして、間違いのないように情報を伝えようとして棒読みになり、ちっとも耳と心にのこらないということが頻発しましたので、勇気をもって少しぐらい飛ばしてもいいから自分の言葉で言おうよ、その方が行政への情熱が伝わるよと随分指導しました。
 その枠を使って、時々知事自身がトピックを説明したり、県内外の著名人と対談したりすることもしていました。私の知事時代は、毎月対談が30分1回、説明が15分、時には30分1回ないし必要に応じてプラスという案配でしたが、今回岸本知事は井上さんに対談をお願いしたようです。
 その中味は、大別して2つあって、1つは和歌山の観光をどう見るかということで、もう1つは、リスクをおそれず、チャレンジする精神ということだったと思います。
 井上さんとは、私の知事の時代にも全日空のLCC(ローコストキャリアー)のピーチの社長におつきになって以来のお付き合いがありました。
 ピーチのオフィスにもお邪魔しましたが、井上さんも若々しいけれど、さらに若くて元気のある社員さんが、ラフな格好でラフな配置のオフィスの中で生き生きと働いているのが印象的でした。関空にはピーチ専用といってよいと思われるターミナルビルが出来、格安の料金でたくさんの便を全国や近隣の外国にとばすという新しいビジネスへの挑戦が始まりました。オフィスを見ても、井上さんのお話を聞いても、これはきっとうまくいくなと思っていましたが、結果がそのとおりになっているのは、衆目の一致するところだと思います。井上さんがピーチの本社たる全日空の社長になられたのは、さもありなんと思うところであります。
 岸本知事は当然ですが、井上さんも和歌山県の観光資源がすばらしいものがあると大いに褒めて下さったのは、大いに感謝するところで、これからの観光の振興にさらに期待したいと思いますが、よりおもしろかったのは、リスクを気にしないで挑戦しようという後半の部分でした。
 二人とも、それぞれ経験を語りつつ、失敗を気にしないで、チャレンジすることに関して一致して、大いに盛り上がっていましたが、私も共感をもちます。
 その中で、井上さんの言葉で印象に残っているのは、自分がピーチの社長になって、その経営をまかされた時、自分は80%は失敗すると覚悟して、それならイノベーティブな価値ある失敗をしようと、頑張ったということでした。
 一方、岸本知事は、大蔵省から派遣されて、米国の西海岸、特にシリコンバレーで取材をしていた時の経験を話されましたが、とても印象的でした。シリコンバレーで創業をした人にハイリスク、ハイリターンだと思うが、どういうお気持ちで事業を始められたのですかとお聞きをしたら、変な顔をされて、ローリスク、ハイリターンだと言われて驚天したそうです。アメリカでは創業して多くの人が失敗するが、失敗してその人に価値がつき、次にその人がもう一度事業を起こそうとすると、さらに多額の出資が期待できるというのです。その理由は、チャレンジして失敗した人は、その時にたくさんの経験をしているのだから、失敗をしたことのない人よりも、はるかに知見が高まっている。だから、評価されるからチャレンジしての失敗はノーリスクだというわけです。井上さんは、そのとおりで、自分も星の数ほど失敗をしたが、頑張っているうちに、当初のモデルからずれた形で成功することがほとんどだと言っておられたし、岸本知事も選挙で落選した経験がなければ、今の自分はないと言っていました。

 米国では失敗をおそれず、失敗から得られたものを評価する風土があるからこそ、次々と創業がなされるのだ、うらやましい限りと岸本知事も語っていましたが、そのとおりだと思う一方、どうすれば、風土のちがう日本で、創業をさかんに出来るかは大いに知恵をしぼって考えるべき課題だと思います。
 岸本知事は、県庁職員にも失敗をおそれずに、どんどん挑戦するように言っているのだ、挑戦しての失敗はOKで、逃げたり、なまけたりしての失敗はいけないと言っていると語っていましたが、(私もそう言っていまして、色々工夫もしましたが、)これからの県政と県庁の諸君の挑戦に、大いに期待したいと思います。

 人選といい、内容といい、お二人の語る経験といい、すばらしい番組であったと思います。

(番組の本体は県庁のホームページで、今からでも見ることができます。・・・・あれ!私も県庁の広報役職員みたい。)