昆虫採集の楽しみ

 私は趣味がいっぱいあって、仕事で忙しくなくても絶対に退屈しない人なのですが、ちょっと変わった趣味は昆虫採集です。一応研究をしていますと言っていますが、学問の世界への貢献は大したことはありません。
 何がよいかというと色々あります。まず、自然に親しめること、第二に、野山を歩き回るので健康によろしい。第三に、それなりに自然や動植物の生態などについての知識がつく。少しアカデミックな香りもかげるということです。第四に、昆虫を求めて旅に出かけるわけで、世界中の色々な文物が分かるようになる。最後の点は、知事というあまり暇のない生活をしているため、長い休みが取れないし、和歌山から遠く離れたところで、和歌山で一大事が発生したら困るので、最近はもっぱら県内の自然探訪をしています。
 しかし、昆虫を求めて山の中や谷の奥や過疎地の里などを訪ねるわけですから、和歌山県についての色々なことが分かります。
 ローカルな道路も含めて、県内の道路網がどうなっているか、県の道路担当職員にも負けないくらい熟知していますし、その不備が和歌山を不便にし、人の命など安全を守る上で、また仕事のチャンスをものにする上で、どれほど県民の暮らしを阻害してきたかも分かるようになります。また山村の鳥獣害のひどさも身にしみて分かります。採集を終えて暗い中を山を降りてくると、人里の中も含め、シカがいっぱいです。またいたる所イノシシのぬた場があり、シカが食ったからでしょうか、山に笹や下草がなく、木の樹皮がそっくりなくなって枯れている木がいっぱいです。村里では、田畑や家々が金網のシェルターに囲まれているところがほとんどです。そうしないと被害で人間が生きていけないのです。さらに、杉や桧の植林地は、間伐が進まず、真っ暗で、幹は鉛筆のように細いという林がいっぱいです。
 こういう所をあちこち行って見聞を広め、悩んでいる中から過疎対策、移住交流対策、鳥獣害対策、林業振興策などが次々と浮かんできます。

 一方、昆虫採集はどうしても殺生をしますので、あまりほめられた趣味ではありません。もっと上級になると写真を撮るという人もいますので、その方がずっとよいと思います。しかし、運よく目途す虫を見つけたとしても、写真に収めることができる割合は、ネットで採集することの100分の1くらいだと思いますので中々転向ができません。また、採集して標本にしてみませんと、その形も色も美しさも本当には分かりません。こうして種の分類ができて初めて、その生態についての理解が進むのです。そういう貴重な自然は守らないといけないという気持ちがムクムクと湧いてきます。そうやって自然を理解することによって、頭でっかちでない、表面的でない自然保護を語り、実行できるのではないかと自己弁護につとめています。
 それにしても採集に行って、山を歩いていると本当に気持ちがよい。気温も大都会とは大違いに涼しいし、風も快いし、アップダウンに耐えてピークで見る景色も最高だし、一休みに飲む水がおいしいことおいしいこと。最近は夜間採集もします。夜に明かりに来る甲虫や蛾を採ろうというわけです。山の漆黒の闇の中に灯る明かりも中々おつなものです。
 そういうと、すぐ決まり文句で夜の蝶はとらんのかと人に言われます。一回目の知事選挙の際、応援に来て下さった蝶友のH元大臣が「仁坂さんも、私も夜の蝶はちょっとしか採りません」と言われて窮地に立ったことがあります。「ちょっとは採るのか」と。Hさんはいざしらず、正しくは、私は夜の蝶はまったく採りません。