京都風商売

 先日、ある会合のおみやげに金平糖をもらいました。ROMANÉE-CONPEITO(ロマネ・コンペイトウ)という名です。立派な桧の箱に入っていて、箱にそうアルファベットで刻印されていてその中のぶどう色の円筒型の紙箱の中に恭しくぶどう色の金平糖が入っているのです。箱を見た時一瞬立派なワインかと思いましたし、おまけにROMANÉE-CONPEITOがRomanée Conti(ロマネコンティ)にとても似ていて、あの有名な超高級ワインロマネコンティと見まがうばかり。商品企画した人のいたずら心と良質のユーモアが感じられました。京都にいる知人に聞いたら、京都でも有名な金平糖のお店で、とても頑固な親父が格調高くすなわち頭を高くして商売をしているそうです。さすがは京都と思いました。

 長い歴史と伝統のある京都では、さすがに人々は「値うち」のつけ方をよく知っていると感じることがあります。京都というと、何となく長い伝統の中で洗練されたものがあるというイメージがあります。京都の企業の人は、このイメージをうまく利用して商品を作り、それを売って儲け、また、そのような洗練された商品が世に出ることによって、上品でハイソな京都のイメージがさらに強化されるということになっていると思います。
 しかし、その商品をよく見ると、必ずしも材料が高価なものばかりとは限りません。例えば、京野菜というと我々はとにかく立派なイメージがするのですが、必ずしも地味も豊かでなく、気候も芳しくない所で採れるやや倭性の野菜を、京野菜というイメージをたっぷりふりかけて売っているように思いますし、有名な京漬物についても、和歌山だとともすれば捨ててしまいかねない大根の葉みたいなものを、きちんと加工して、目を奪われるようなセンスのよい包装をして売っているのです。まことにブランド戦略の真髄を心得ているといってもよいでしょう。
 ともすれば、豊穣の自然の中に住んでいる和歌山の我々は、地の味がおいしいのですから、おいしいものはそんな工夫をしなくてもいいという環境に慣れすぎて来た結果、せっかくの豊かな資源から十分な所得を得ることができてこなかったような気がしてなりません。京都の人々の知恵を教訓として、我々和歌山県も頭を使って頑張りましょう。

 そういう戦略の1つに、こぎれいな包装という事もあります。冒頭のロマネ・コンペイトウもその例の1つですが、よく日本で行われる事に、英語やフランス語やイタリア語でパッケージを覆って格好をつけるという方法があります。我々は、大抵の場合アルファベット表記を見ても、すぐには意味が分かりません。だから、こういう外国語は絵のように単なる装飾として使われていると思います。商品パッケージのほか、町にある店や商品の看板や、格好をつけたパンフレットなんかにもよく見られます。
 ところが、これがとんでもない「外国語」である場合があるのです。まじめによく見てみると、英語で言うと文法がむちゃくちゃであったり、日本語の微妙な表現を言葉尻だけを捉えて無理に直訳したものだから、とんでもない英語になったりしているものがあります。それほどではなくても、そんな英語があるかいなとびっくりするような表現が並んでいるものもあります。フランス語やイタリア語になると我々になじみはない分だけ、新鮮に聞こえるという効果があると思われるのですが、我々に基礎知識がないだけ、とんでもないものがまかり通ってしまうことがあります。
 こういったお粗末をやりますと、せっかくブランド価値を上げようと思ったのが逆効果で商品の声価を下げてしまいます。和歌山でも、最近そういうのをあちこちで発見します。そういうのはできるだけ早く正しましょう。(ここでは言いません。)

 ところが、先に誉めたあの京都のロマネ・コンペイトウがその見本だったのです。その箱にはこう書いてありました。英語表記を以下に記し、その後に私の訳とコメントをつけておきます。

 Occasionally it is sweet and bitter
 People are intoxicated by Konpeito
→「時たま甘く、時たまにがく。」まあいいか!
「人々はコンペイトウに酩酊する」大層な!

 Ultimate Wine Konpeito
→「究極のワインコンペイトウ」まあよく言うけど。

 It manufactures only at once for a year
→「それ(コンペイトウか?)が作る。(何を)1年の間に瞬時に。」何のこっちゃ。多分「1年で1度しか製造しません」という事だろうと推測されるが、それなら「(It isを略して)manufactured only once a year」ではないでしょうか。

 さらに箱の中に小ぎれいな小さいパンフレットが入っていました。紙質も最高、挿絵も美しく、デザインは素晴らしいものでした。そこに美しい字体で日、英両文で多分同義というつもりであろうと思われるこんな文章がありました。日本語は次のとおりです。

 「フランスはブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村で作られた高級赤ワインを使用し、凝縮された果実味の力強さと砂糖のエレガントな口当たりをかもしだし、酸味をきれいにバランス良く仕上げた本品は、試行錯誤の上、制作に二年半かけてやっと完成しました。
 熱を加え続けるとアルコール分が飛んでしまい、ワインを熟成させる前の独特の酸味とタンニン(渋み)が結晶を阻むにもかかわらず、長年培った最高の技で風味を生かし、約20日間挑んで成功した、まさに至高と究極を兼ね備えた逸品です。

 金平糖は、蓋物(クリスタルガラス等)に入れて保存していただければ常温でお日持ち致しますが、金平糖が空気に触れて万が一、色が薄くなっても商品に影響ございません。」

 それの訳と思われる英文は次のとおりです。

 「It completed at last after trial and error, having applied [which France used the high-class wine made in the VOSNU ROMANE village of the Burgundy district, brewed the elegant taste of the forcibleness of the condensed fruits taste, and sugar, and finished acidity with sufficient balance finely] it to work two years and a half.
Although peculiar acidity and peculiar tannin (astringent taste) before an alcohol content’s flying and ripening wine obstruct a crystal when it continues applying heat, it is the excellent piece which challenged for 20 days and was successful with the highest work cultivated for years taking advantage of flavor and which just combines éä quantity and the extreme.」

 何じゃこれは。無理矢理この英文を和訳しようとするとこうなります。

 「それ(何だ?)は試行錯誤の上、ついに完成した(何を?)。それ(何だ?)を2年半(何か前置詞がいると思うが?)働くために適用した状態で。[(この括弧内の文節が何を修飾しているのか分からんが)フランスは、ブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村で作られた高級ワインを使い、濃縮された果実の味と糖分からむりやり力づくに作ったエレガントな口当たりを起こし発酵させ、十分なバランスと一緒にきれいに酸味を仕上げた]特異な酸味と特異なタンニン(渋み)が、アルコール分がワインを飛ばして熟成させる前に、熱に適用することを続ける時に結晶(でもこんな文だと普通は水晶だなぁ!)を妨げるけれども、それ(何だろ?)は、20日間挑戦した素晴らしい逸品であり、香りを利用して何年間も涵養されてきた最高の作品について成功でした。(どこへかかるか分かりませんが)éä(ea=eachのことだろうか)量と極端を結びつける(何が?)」

これ何の事でしょうねぇ。

 他山の石であります。ブランドを作り上げるのが上手な京都の店でも、時にはこういう事をやります。和歌山でも、大いに気をつけましょう。