私は、通商産業省で秘書課研修班長(兼通商産業研修所教務課長)というポストについたことがあります。入省9~10年目ぐらいの生意気ざかりだったのですが、その時は、通産省に入った人の能力をどうやって高めていくかという研修業務に加え、採用も担当しました。採用は、当時は上級職、中級職、初級職ごとに行って、私はそれぞれの事務系を担当しました。上級職に関する当時の通産省の採用は、人事院の行う公務員試験を受けた学生さん達を、夏の暑い盛りに秘書課主席課長補佐と次席の課長補佐である研修班長が主として2人で面接して行うのです。主席がもちろん最終責任を負うのですが、毎年替わります。1年目は住友商事から現在日中経済協会の理事長をしておられる岡本厳さん、2年目は現在の岐阜県知事の古田肇さんにお仕えして、採用の仕事をさせてもらいました。昭和59年入省組が岡本さんの採用組、60年入省組が古田さんの採用組というわけです。
役所にとっては、30年間は働く人々を選ぶのですから、30年に1度の設備投資と言ってもよい重要事で、少しでもいい学生さんを採用しようとしますから、とても採ってやるというえらそうな立場ではないのです。一方、学生さん達にとっても自分の人生がそこで大いに変わるのですから必死なわけです。
いわばスケールのでかい集団見合いみたいなもので、様々な人間模様がくり広げられた結果、相思相愛となった双方が、めでたく入省内定となるわけです。
そうやって選んだ入省者に対しては、我々採用担当者の思い入れは、ひときわ強く、毎年25人前後の採用者がいるのですが、いつまでも、うまくやっているかなと心配になり、立派な仕事をしてくれていると嬉しくなるのです。
採用はもう随分前の話ですから、59年、60年組も、いい年になり、多くの経験を積んで、はや課長を卒業しつつある年代となっています。審議官、局の部長とか各局の筆頭課長、総理秘書官とかの年代でしょうか。皆、官僚バッシングに耐えつつ、政治家に一生懸命進言しながら、国政を守ってくれています。
その活躍を県と国のかかわりの中で、またTVや新聞などの報ずるところによって、多く目の当たりにして、嬉しく思っています。
その1人から年賀状がまいりました。長文の年賀の報告の中に、一生懸命国を守っている彼の心意気と苦衷を感じることができました。勝手に紹介させていただきます。
『今年は、数々の重い決定をしていかねばなりません。国をあげた議論を経て結論を出さねばなりません。すべての要請を満たし万人を満足させる解は、恐らくありません。政府・専門家への信頼が損なわれ、単純でわかりやすい議論がますます力を持つ中、何をひとまず措しき、何を選び取るか、という厳しい判断とその理由の説明を迫られます』 昨年の年賀状のこの一節は、今年も変わりがありません。残念ながら、結論の多くを今年に持ち越すこととなったからです。
相容れない意見が並立する中で、コンセンサスを得るのは容易ではありません。意見をとりまとめようとする主体への信頼が失われた状況においては、なおさらです。不都合な真実に直面して初めて結論が出る、ということを繰り返したくはありません。ただ、理解と納得を得るためのプロセスをないがしろにするわけにも行きません。
“政治主導”“脱官僚”が殊更に叫ばれたこの数年、初対面の人から「役人ではダメだ。政務を出せ」と言われたこともありました。他方、じっくり話すことができた方々からは、期待に裏打ちされた厳しい御指摘をいただくことがしばしばでした。
齢を重ねるほどに自らの非力を思い知らされますが、“政治主導”を隠れ蓑に厳しい場面から逃げたり、責任を回避したりしてはいないか、ひとつひとつの言動が事後的にきちんと説明できるものであるか、そう我が身に問いかけながら、今年も精進を続けようと思います。
みなさまにとって2013年が少しでも実りと幸せの多い年となりますよう!
あらためて、彼のような人材を採用できたことを誇りに思います。