外国人労働者①(全2回)

 外国人労働者をどうするかと言う議論が最近よくされています。少し前までは、日本の人手不足を補うために外国人労働者をもっと入れるべきだという議論が盛んでしたが、最近は外国人労働者がこんなに日本にいるのは問題ではないかという議論のほうが盛んになってきているような気がします。
 前者のほうの議論は、少し前は経済界から熱心に唱えられていました。日本の人口はどんどん減っていますが、生産労働人口は少子化のためもっと減っています。大手企業の方が発言されることが多かったように思いますが、中小企業の人手不足はもっと深刻で、農業に関しても働き手がいないので、外国人でもいいからもっとたくさんの労働者をもっと自由に日本で雇えるようにしてほしいという声が、知事をしていた時もたくさん上がっていました。今は、低賃金の単純労働者の入国と就労はかなり制限されていて、今沢山いるその手の労働者は研修目的で日本に来ていて、日本で仕事を覚え、本国にそれを持ち帰ってその国の経済発展に資するようにという目的のために日本にいるという建前のようです。このため、いろいろな制度が設けられていて、その制度を運用するために多くの研修斡旋組織が存在しています。きちんと趣旨にかなった斡旋をするように当局が監督をしているようです。このように今働いている外国人は研修目的で来日しているのが大半ですが、その割には、工事その他の職人さんやコンビニなどの店員さんには外国人が大変多く、どんな研修をしているのだろうかと思う時が多々あります。凡そ彼らがいないと日本の経済も回って行かないような気がするのですが、それでも人手不足は解消しないのか、経済界の要求は、こんな研修目的と言ったまやかしはやめて、もっと大っぴらに安い外国人労働者を雇えるようにしてほしいということなのでしょう。
 一方最近報道でよく目にするのは、外国人により犯罪が増えているとか、外国人労働者が沢山住んでいる町では治安が悪くなっているとかの話です。また、外国人は日本人との所得格差もあるし、言葉の不自由さもあるのでしょうか、固まって住んでいて、そういう地域では商店の看板や案内なども外国語で書かれているものが映像では目につきます。日本の中に外国が出来てしまったような印象があります。昔から世界中にある中華街とか、アメリカ大陸で移民の日本人が固まって住んでいた日本人街といった感じでしょうか。日本では失業率が低いので、欧州のように若者の雇用が外国人労働者によって奪われているといったクレームはあまり聞かないように思います。
 これ等と問題の本質は違うように思いますが、日本にも「高給取り」の外国人がずいぶん増えたように思います。昔からJETなどで日本で英語などを教えていた外国人の先生が大都会のみならず全国にいたのですが、最近は日本企業の国際化に日本人従業員やさらには日本人経営者が付いて行けないのか、トップ層や専門技術者層に、大変高い所得を得て多くの外国人が働いているようです。こういう人は東京など大都会に多く、最近は近所でもよく見ます。
 さらには、日本の人口が減ってきてこのままでは国家が消滅してしまうのではないかという懸念の声が多く、そういう心配をする人の中には、世界中から移民に来てもらって、日本の人口減を食い止めようという意見もぼつぼつ聞かれるようになりました。

 さてこういう問題をどう考えたらいいでしょう。私は、労働者不足に困っている産業界の外国人労働者の導入をもっと進めよという声も大変切実だと思いますし、外国人の移民を入れなければ解決しないと言わるようになった日本の少子高齢化も何とかしなければいけないと思いますが、そういった一つの側面、側面だけで考えるのではなくて、もっと広い側面も含めて総合的に日本のあり方を考えなければならないと思います。そういうとすぐに外国人の犯罪のようなことばかり思いついて、だから外国人は日本に入れるな、追い出せということになるのですが、私が考えなければいけないというのはもっと多面的な視野に立ったことです。

 このことを考える前に、私が経験した世界の出来事をご紹介します。
 私は、学生時代、ヨーロッパを旅したある時ミュンヘンの駅で異様な光景を見ました。ヨーロッパの主要駅は大体大きな作りで、真ん中に大きなホールがあるのですが、そのホールがトルコ人の男性でいっぱいになっているのです。そこで、皆思い思いに集まって、仲間同士で立っておしゃべりをしているのですが、考えてみると、その日は日曜日でお仕事のお休みの日でした。仕事が休みになったトルコ人の労働者が、ほかに行くところもないからでしょうか、駅に集まってきてトルコ語でおしゃべりをしているようでした。異様な光景だなあと思ったのですが、この時高度成長期に日本より少し早く入ったドイツでは、労働者不足をトルコなどの周辺国に求めて積極的に外国人労働者を導入していた時でした。ドイツなどの経済発展は、このような外国人労働者の働きによっている面も大きかったのではないでしょうか。このような外国人はその一部がドイツに定着します。母国に帰ることなく、一部は土着のドイツ人と結婚し、ほとんどは母国から伴侶を呼び寄せて所帯を持ち、ドイツ人になって行きます。所得は低かったようですが、子供の数は昔からの「アーリア人」より多かったようで国内の人口比率は徐々に高まっているようです。同じようなことはフランスでもイギリスでも起こり、私が大使として赴任していたブルネイで同僚であったフランス大使夫人などは、フランスで人口が増えているのはアフリカ系の人達ばかりと敵意を隠しませんでした。(こういう話は夫である大使は外交官という立場上めったに言いません。奥様は本音の世界です。)そう言えば、サッカーの世界では、ドイツも、フランスも、イングランドも、アフリカ系の顔をした名選手がどんどん多くなって、そういう国のナショナルチームはいったいどこの国のチームだと思えるような時が多々あります。いいことばかりとは限らず、そういう出自を持つ犯罪者がどんどん増えて、また、若年者の失業率がえらく高い国々ですから、元々の住民の間で、自分たちの仕事が移民や外国人労働者に取られているという敵意が溜まっています。いずれの国でも、メディアから極右と言われる政治勢力が伸びたのもこういう社会の中の敵意が原因であることは明らかであると私は思います。欧州の先進国が外国人労働者の導入を図った時は、おそらく産業の発展と外国人の人権や処遇をバランスよく考えたつもりだったと思いますが、今や国民の中に分断や敵意が生じる種になっています。

 一方、ブルネイでは、今はもっと人口が増えていますが、仁坂大使の時代では、人口は35万人でした。そのうちブルネイ国籍を持つ人は25万人、残りの10万人は外国人労働者でした。永遠に平和な国という言葉を国名に関しているブルネイは、人口が少ない割に石油天然ガス収入が多いので、人々は豊かに平穏に暮らしています。民主主義はありませんが、国民に対しては教育も医療もただで、治安もいいので、国民の間に目立った不満はありません。国民の70%は公務員で、民間活動に要する労働力は外国人が担っています。道路工事のような仕事から、それぞれの家にいる家政婦さんのような仕事、さらには普通の商店の店員さん、飲食店の料理人、ウエイター、ウエイトレス・・・みんな外国人です。出身国は、いわゆる3Kのような仕事はバングラディッシュ、インドネシアが多く、家政婦さんや店員さんはフィリッピン、マレーシアが多かったのですが、詳しく調べたことはありませんが、同一職種同一賃金などという労働法規が適用されているとは思われず、賃金はとても安かったと思います。ほとんどの労働者は若くて独身ですが、働いている限り、ブルネイでの居住は認められますが、病気その他の事情で働けなくなった途端に国外に出されるので、こういう構造になっているものと思われます。先に国民は医療費も教育費もただといいましたが、国民でない外国人労働者はこのような制度の恩恵には浴しません。おまけに国からの費用負担がないときは利用料金がとても高いので、低賃金の外国人労働者はとても利用できません。その結果どんどん体が悪くなって重い病人になって国外追放・本国送還というケースが多いようです。でも働ける限りは本国にいるよりははるかに稼げるので、外国人労働者は文句も言わず次々とやってきて、稼いだお金をせっせと本国の係累に送金しているようです。意外と警察の力も強いので、とても逆らったり、抗議の声を上げたりはできません。もちろん、ブルネイの国民もこの状況を当然と考えていて、外国人労働者が可愛そうだと考える人はいませんし、ましてや外国人労働者の人権はどうしたという人は一人もいません。もう一つおまけですが、ブルネイの国は結構宗教的規律を守る国で、イスラム教徒の男性が妻以外の女性といわゆる不倫をすると厳しく指弾されるのですが(もちろん露見した場合)、相手が異教徒の女性であった場合はもっとひどいことになります。その女性は直ちに国外追放になります。さらにまた、(ブルネイの人に聞いた話ですが)見せしめのためでしょうか、むち打ちの刑に処してから国外追放だというのです。一方イスラム教徒のブルネイ国民の男性のほうは宗教警察にこってり絞られて、えらく不名誉なことになるのですが、ブルネイにい続けることもできるし、職業も続けられるので、不公平だなあとひそかに思っていました。永遠に平和な国ブルネイでも、日本から見るとどうかと思うような現実のもとに、国民が豊かに安寧に暮らしているのです。外国人労働者をどんどん導入する代わりに、ブルネイ国民が損をすることがないように厳しいというか、日本人から見ると非情ともいうべき制度を維持していてバランスを取っているというのが現実です。

 そう言えば、ずっと昔私はイタリアで暮らしていましたが、外国人労働者や不法滞在者に対する人権などということを唱える人は周りの立派な人たちには一人もいませんでした。イタリアという先進国で民主主義国のことですから、こういう外国人にも人権はあるのだと主張する人は少数だけれどいました。またローマカトリックの伝統の施し文化はあるので、物乞いをしている人にはなにがしかは施しをする人は多いし、おそらく不法滞在者であろうアフリカ系の人が車で信号待ちをしていると窓ガラスを拭かせてくれと寄って来るのですが、案外拭かせてやってお金を支払っていました。
 しかし、これは相手を人間とは思っていないなあと思うような出来事にも遭遇することもありました。イタリアにはジプシーがいます。その中には物乞いと見せかけてすりを働く小柄な少女の集団があります。こういうのが襲ってくると、対抗するのが大変で、私はたいてい持っているアタッシュケースでそういう手合いを押し戻していましたが、意外と力が強くて小柄な少女に押し負けそうによくなりました。しかし、スーツ姿の身なりの良いイタリア人男性が、そういうことを仕掛けてきた少女を思いきり殴りつけている場面を目撃したことがあります。同じような場面に何度も遭遇しました。同じイタリア人が泥棒を働こうとした時、あそこまで無慈悲にどつきまわせるかなあといつも思いました。

②(全2回)へつづく