前回からの続きです。(全2回中の②)
ハンセンさんのこの本はもちろん翻訳ですが、スウェーデンではベストセラーになったようで、世界中考えることは同じだなあと感慨深いものがあります。読んでみると、「なるほどなるほど、そういうわけか、やっぱりそうだなあ」の連続で、しかも、それぞれの結論が、詳しい調査に基づいて実証され、脳科学に基づいて理論化されているので、とても説得力があります。
私がこの本の紹介をするのもおかしいし、書評を書く実力などないのですが、やっぱりねと私が思うところを以下にいくつかあげます。
・人間の脳は原始の時代からの進化の結果、「火災報知機の原則」でいつも外界の情報に気を付けるようにできているので、スマホの着信が気になってしようがない。過度にとらわれる。
・スマホが気になって集中できない。人間の能力は集中しないと落ちる。
・脳は新しいものが好き。スマホの届ける情報に飛びついてしまう。
・重要でない情報を識別できない。無視できない。
・脳は自分のことを表現したい、言いたい、拡散したい。スマホのチャットはこれにぴったり。
・真実かどうかではなくて、脳を満足させるか。スマホ情報の真実性はだれもチェックしていない。
・スマホなどのスクリーン効果で不眠になる。
この関係で、面白いことが書かれていました。脳の前頭葉は人間の報酬要求、すなわち、知りたいからスマホにすぐ引きずられることに歯止めをかける能力が備わっているが、この脳の機能は30歳ぐらいにならないと完成しないそうで、なるほど、だから若者は、昔は社会でゲバ棒を振り回して暴発したし、今はスマホ中毒になっているのだと思いました。
また、この「スマホ脳」は子供たちの教育に関しても多くの警句を発しています。
・スマホをいじらせると、子供たちの授業の理解度が落ちる。成績が落ちる。
・手書きのほうが文字の習熟が速く、良好。
・電子媒体よりも紙媒体のほうが理解が進む。記憶に残る。
・よく寝る子のほうが理解が進み、記憶がよくなり、成績が上がる。
・スクリーンの前にいる時間の多い子供は眠れなくなる。
・運動は教育、学習、子供の脳の発達すべての場合にいい効果。
なるほど、そういうことか、と色々なことが腑に落ちました。この本でも、IT界の巨人、スティーブ・ジョブも、ビル・ゲイツもその子供にはスマホを与えないと書いてありました。そう言えば、昔、私が子供の頃、ご両親が知的な仕事についていて、教育熱心な家庭の友達が、家でテレビを見せてもらえないのだと言っていました。我が家はというと、テレビは見せてもらえましたが、夜の8時になると寝かされていました。当時放映されていた確か8時半からの「事件記者」という番組が見たくてしようがなかったのに見られなくて悔しい思いをしたことを未だに恨んでいます。私は、成人してから、使命感から、残業も厭わずよく仕事をしたので、人からは結構体が丈夫な奴だと思われていますが、高校生までは虚弱体質で、親も心配したのでしょう、勉強しろとは一度も言われたことはありませんでした。勉強していたら邪魔されたことはありますが。ただ早く寝ろとだけはやかましく言われていました。毎日8時から寝かされては、睡眠が足りているのでなかなか寝付かれなかったのですが、今は睡眠不足でいつでもコテンです。でも、あとから考えると、それが結果的に良かったかと親に感謝しなければいけません。そう言えば、小学校の時、親から勉強を無理やりさせられているんだという学友がいましたが、成績優秀だった彼はだんだんと目立たなくなりました。これも、皆ハンセンさんが書いていることだなあと感心しています。人の脳は寝ている時に情報の整理をしているそうで、よく寝るほうが成績が良くなるそうです。そう言えば、この間和歌山で、和歌山県の女性弁護士の草分けで、和歌山女性イコール会議というなかなかの論客の方が集う会の、カリスマ会長である松原敏美さんの叙勲記念お祝い会に招かれて出てまいりましたが、後輩の方のスピーチで分かったことは、松原さんは今でも8時になったら寝てしまうそうです。松原さんは見るからに頭が切れそうな、かつ、ほんわりとした包容力のある方ですが、その能力の高さはハンセンさんの言うとおり、なるほどよく寝ているからかと思いました。そう言えば、私の家内も大変な眠り姫で、子供の時も、受験時代も、大学に入ってからも、夜の9時になったらもう寝ているという人でした。
そして大事なことは運動です。かなり激しい運動をして汗をかいている人は成績が良くなるそうです。激しいと言っても、マラソンまでは求めないそうですが。そういう意味では、学校時代の適度な部活はよかったんだなあと、運動部に籍を置いていなかった私は、過去を振り返って慨嘆しています。運動をどこをベースにしてやるかは国それぞれですが、日本は学校の課外授業でこれを行ってきました。英米流です。一方、大陸ヨーロッパは違います。大学を含め、学校は勉強をするところで、運動が上手くなりたかったら、学外のクラブに入ってやれというのです。私がいたイタリアなどは大学に運動部などありません。小中学校高校も授業で少し体育の時間はありますが、運動部などありません。当たり前のように思っていた学校における部活動は英米の伝統を取り入れた日本の特異な方式でした。こういうことを忘れた文部科学省が、最近部活動の顧問を学校の教師がやるのが負担なので、部活動は学校から切り離して町のクラブで行うようにしようと動き出したことがありました。文部科学省が言ったらすぐなびく教育委員会の諸君がその方向で準備に入りたいというので、以上の歴史的経緯を説明して、止めさせました。たとえ全国がそうなっても、和歌山県だけは運動や文化の課外活動は最後まで学校の活動にとどめるぞと言って。ハンセンさんは多くの実証研究からこのことを支持してくれているように理解しました。
スマホによって人が馬鹿になって行く、これは大変なことです。近年格段に向上した欧米の人々のIQは、最近年ごとに低下を示しているそうです。中でも、私は子供の成長を問題視します。子供の教育の過程で、スマホに取り込まれて馬鹿になるリスクから子供をいかに守って健全に成長させていくかが、喫緊の課題のような気がします。子供をスマホ浸りからいかに守るかを一刻の猶予なく早く検討して、対策を実行に移す必要があります。少なくとも、年少の頃はスマホを持たさない、学校ではスマホを取り上げておく、家に帰ってもある時間以外はスマホに触らせないなどといルールを作らないとまずいことになるのではないかと私は思います。また、その予防薬ないし治療薬として学校における運動活動があるんだということは忘れないようにしたいと思います。決してIT音痴の年寄りのコンプレックスから出た意地悪ではありません。